響かぬチヂン、静かな秋 奄美、コロナで伝統行事中止

2019年に行われた龍郷町秋名・幾里の伝統行事「ショチョガマ」=19年9月6日、龍郷町秋名

2019年に行われた龍郷町秋名・幾里の伝統行事「ショチョガマ」=19年9月6日、龍郷町秋名

 新型コロナウイルスの影響で、奄美の秋の伝統行事が軒並み中止に追い込まれている。国の重要無形民俗文化財に指定されている「ショチョガマ」(龍郷町秋名・幾里地区)や「諸鈍シバヤ」(瀬戸内町加計呂麻島諸鈍)、県の無形民俗文化財「油井の豊年踊り」(瀬戸内町油井)などだ。五穀豊穣(ほうじょう)を願う、チヂン(太鼓)や島唄が響かない静かな秋に、群島民はやるせなさを抱えている。

 

 旧暦8月の最初の丙(ひのえ)(9月20日)は「アラセツ(新節)」、7日目の壬(みずのえ)(9月26日)が「シバサシ(柴挿し)」と呼ばれ、旧暦8月15日(10月1日)の「十五夜」、旧歴9月9日(10月25日)の「クガツクンチ」まで、奄美大島内の各集落では五穀豊穣を祈る稲作儀礼や豊年祭、豊年相撲、八月踊りが奉納される。敬老祝いを同日に行う集落もあり、集落の一大イベントとなっている。

 

 ところが、今年は新型コロナウイルスの影響で、軒並み中止、あるいは無観客での規模縮小が決まった。

 

 山の中腹に建てたショチョガマ(片屋根のわらぶき小屋)に男衆が乗り、揺さぶり倒す龍郷町の「ショチョガマ」は7月に中止を発表。保存会の窪田圭喜会長(79)によると、運営には集落外のボランティアや観光客が多く関わることから、感染リスクを減らすため中止に。同日に海岸でネリヤカナヤ(海のかなたの楽園)の神々に祈りをささげる「平瀬マンカイ」は無観客での実施と決めた。「われわれが子どもの頃はこうだった。昔ながらのやり方に戻るということ」と話す。

 

 加計呂麻島の「諸鈍シバヤ」も紙面(カビディラ)姿のユーモラスな舞で知られる伝統芸能。毎年旧暦9月9日に行われるが、今年は「住民生活の安全を重視した」(徳元・諸鈍集落区長)として中止に。大和村の豊年祭(旧暦8月15日と9月9日)も「不特定多数の方々が集まる事業は感染リスクが危惧される」として、全集落で中止が決まった。

 

 毎年多くの帰省客が参加する宇検村の豊年祭は、敬老祝いと併せて大半が8月に実施されていたが、こちらも全集落で中止となった。一方、土俵のおはらいや豊年祈願の振り出し、神事としての前相撲だけをとった集落も。土俵のおはらいをした芦検集落の松井寿一区長(65)は「せめてこれだけはしないといけないと思った。毎年豊年相撲を楽しみに帰省する出身者も多い中で心苦しく、苦渋の選択だったが、集落の安全を祈願し、来年は皆が帰ってこれるよう祈った」と話す。

 

 奄美市教育委員会文化財課の久伸博課長は「集落で決めたことが尊重されなければならない」とした上で、「コロナ禍でも実施するのか、またどこまでするか、という議論は、現代において祭りの本質とは何かを考える機会にもなり得る」と話す。

 

 一方で人口減少が進み、集落外の協力がないと維持できない現状もあると指摘。「屋外とはいえ、大勢が歌い、輪になり、高齢者が多いことを思うと、クラスター(感染者集団)になりやすいリスクはある。区長は悩ましい選択をしたのでは」と語った。

 

 集落の結束力の礎ともなる伝統行事の一時中止に、行事の簡略化や協力体制の希薄化を懸念する声もあるが、秋名アラセツ行事保存会の西田誉さん(36)は「どんな時代になろうとも、祭りは義務感でも使命感でもなく自分たちがやりたくてつないできた伝統行事。今年中止されても、途絶えることも薄れることもないと思う」と話した。