島で生きる④ 奄美の森に同じ日はない 平城達哉さん(29) 奄美博物館

2021年03月26日

地域

篠川小中学校の児童生徒に三太郎峠のフィールドワークで動植物の開設をする平城さん=2020年10月、奄美市住用町

篠川小中学校の児童生徒に三太郎峠のフィールドワークで動植物の開設をする平城さん=2020年10月、奄美市住用町

    「ハブは鳴きますか」「イシカワガエルは何を食べますか」「どうしてバーバートカゲっていう名前なんですか」…。小中学生から容赦のない質問が飛ぶ。受け止めて回答するのが奄美市立奄美博物館で自然研究をしている平城達哉さん(29)。名瀬出身。奄美の野鳥たちに魅了され動物好きに。研究を深めるために沖縄の大学に進学し、5年前に帰ってきた。改めて、奄美の自然の豊かさに驚く日々だ。

 

 野球一筋に打ち込んだ奄美での高校時代。白球とともに追いかけたのが野鳥。部活の合間にアカショウビンやリュウキュウヨシゴイを見つけては癒やされた。早朝にグラウンドに行く楽しみも、野鳥の観察。鉄塔をつつくオーストンオオアカゲラを見つけると笑みがこぼれた。

 

 琉球大学に進学。「正直授業の記憶がない」と失笑するほど、片道3時間かけて沖縄本島北部のやんばるの森に、徹夜で通い詰めた。奄美大島と共に世界自然遺産登録を目指す候補地の一つ。ヤンバルクイナをはじめ、陸亀のリュウキュウヤマガメ、ヤモリのクロイワトカゲモドキ…。奄美にはいない動物に夢中になった。

 

 奄美を知るために、と進学した沖縄だったが、4年間過ごすうちに、どっぷりとその自然の魅力にはまっていた。就職先では揺れた。世界自然遺産の候補地として、すでに知られていた古里だったが、自然研究で生計がたてられるような職種は、沖縄ほどはない。このまま沖縄に残ろうかと思いもしたが、奄美大島には自然科学系の若手研究者がいなかったのも気になった。

 

 週末だけでもいいから、働きながら生き物を調べられる仕事がないかと探り、たどり着いたのが市役所だった。採用初年度から奄美博物館に配属。島の自然環境を研究し、外に伝える役割を担う。期待に胸が膨らんだ。

 

 帰島後は奄美市名瀬に住む。家の中からでもアカヒゲの鳴き声が聞こえ、アカショウビンも見られる。車を走らせれば30分で住用町の三太郎峠にも行ける。沖縄本島に比べて、奄美は圧倒的に自然が近いことを、あらためて幸福に感じる。

 

 博物館で働く以上、一般の人からは「動植物のことを何でも知っている人」と見られることは重圧だ。昆虫や植物のこととなるとまだまだ知識不足。図鑑ではなく自分の目で確かめたい。休む日もなく自然界の四季の移ろいをカメラで追い続けている。

 

 島の人たちの自然への関心もだいぶ高まっていると感じる。特に子どもたちは、自分の学生時代に比べてずっと自然への関心が高い。学校へ講演に行くと「この鳥、学校のあそこで見たよ」と教わることも多いという。

 

 使命は一般の人たちに自然の楽しみ方を伝えることだ。「奄美には1日として同じ日はない。こんな環境で暮らしながら働けるなんて、それだけで本当はすごく恵まれている」

【プロフィル】ひらぎ・たつや 1991年生まれ。小宿中、大島高、琉球大卒。2016年、奄美市役所入り。奄美博物館に配属され、自然観察会などのイベントを手掛ける。