足元に広がる神秘の世界 海底鍾乳洞、観光活用へ 天城町

2020年01月03日

地域

幅約50メートルの広い空間も広がる洞内(天城町提供)

幅約50メートルの広い空間も広がる洞内(天城町提供)

 昨年5月、鹿児島県徳之島天城町浅間に日本最大級の海底鍾乳洞の存在が明らかになった。水中に広がる神秘的な世界と規模の大きさから、新聞やテレビで度々特集された。放映効果や島の玄関口である徳之島空港に近い立地条件もあって、同地を訪れる観光客は急増。周辺の地下には数百メートル単位の鍾乳洞も広がっており、同町は〝足元の資源〟を生かした観光誘致の取り組みを進めている。

 

 ■日本のセノーテ

 

 発見者は沖縄県恩納村の水中カメラマン広部俊明氏(54)。1998年に同村で恩納海底鍾乳洞(広部ガマ、総延長約680メートル)を発見した水中探険家の第一人者だ。

 

 天城町での発見場所は浅間地区の海岸から東に約400メートルの内陸部にあり、町民から「陸の中の海」として親しまれている浅間湾屋洞窟(通称ウンブキ)。かつては電化製品などが廃棄される不法投棄場所だったが、町が2011年度から2年間かけて整備。島内入り込み客の約7割を占める徳之島空港最寄りの観光名所として、以前から多くの観光客が訪れていた。

 

 広部氏は18年9月から潜水調査を始め、19年12月上旬までに計11回調査を実施した。洞内は数十㌢から最大で幅約50メートルの空間が広がり、最大深度は約40メートル。総延長は1キロ超で、これまで日本最大とされてきた広部ガマを超える規模だ。

 

 広部氏は「とんでもないものを見つけてしまった。世界最大の海底鍾乳洞として知られるメキシコのセノーテに酷似していて、まさに”日本のセノーテ〟と呼ぶべき鍾乳洞だ」とその価値を評価する。

 

ウンブキの入り口=2019年12月、天城町浅間

ウンブキの入り口=2019年12月、天城町浅間

 ■縄文土器

 

 調査では新種の可能性が高いエビや11年に見つかったウンブキアナゴの水中映像の撮影にも、国内で初めて成功。縄文時代に製作された可能性の高い土器が良好な保存状態で残り、周辺には別の土器も複数見つかった。

 

 地質学に詳しい鹿児島大理学部地球環境科学科の北村有迅助教によると、「鍾乳洞は長い年月をかけ石灰岩が雨水に侵食されてできる。この海底鍾乳洞は約7千年前の気温上昇に伴う海面上昇で海に沈んだと考えられる」との見解を示しており、土器が複数発見されたことで人の居住地として使われていた可能性も浮上している。

 

 町教育委員会は現在、回収した土器の年代測定を行っており、20年中に時期が特定される見込みだ。新種の可能性が高いエビについては今後、環境省と連携した調査を検討している。

ウンブキ周辺の地下に広がる鍾乳洞。ケイビングなど体験プログラム造成へ整備を検討している(天城町提供)

ウンブキ周辺の地下に広がる鍾乳洞。ケイビングなど体験プログラム造成へ整備を検討している(天城町提供)

 

 ■全容解明へ

 

 海底鍾乳洞は本流が約740メートルあり、その先々で支流が枝分かれしている。想定していたよりも規模が大きく、調査終了は19年度末を予定していたが、次年度以降も継続して行い、一般ダイバーへの公開を目指す。

 

 鍾乳洞の散策は、洞内で直接水面に浮上できない閉鎖環境下での潜水が必要になるため、専門的な技能を持つガイドの同行が求められる。島内にはダイビング業者が少なく、公開に向けて調査と並行してガイド育成や安全なルールづくりを進める。

 

 ダイビング未経験者のために徳之島観光連盟と連携し、洞内の撮影動画を仮想現実(VR)で疑似体験できる体制整備に着手している。町の調査では、ウンブキから陸地側にある民有地の地下には数百メートル規模の鍾乳洞が点在しており、観光客らが気軽に洞窟探検を楽しめる体験プログラムを作成する構想も描く。

 

 町商工水産観光課は「メキシコのセノーテには諸外国の富裕層が訪れており、国内外の観光客がウンブキを目当てに来島する可能性がある。全容解明へ調査しながら、利用調整などのルールをつくることで、多くの人に親しんでもらいたい」としている。