農業変える〝空飛ぶ農機具〟 活躍の場広がるドローンオペレーター 徳之島

2019年01月02日

社会・経済 

農薬を散布する産業用ドローン=2018年12月15日、徳之島町亀津

農薬を散布する産業用ドローン=2018年12月15日、徳之島町亀津

  徳之島で2017年から、一般農家から受託した農薬などの空中散布事業が始まっている。活用しているのは3枚以上の回転翼を搭載した産業用マルチローター(ドローン)。作業効率性や費用対効果に注目が集まり、作業を依頼する農家が増えている。島外から操縦資格の取得希望者も増えつつある。奄美の島々で〝空飛ぶ農機具〟が舞う姿が広がりそうな気配だ。

 

 散布事業を受託しているのはジャパンアグリサービス㈱徳之島営業所(徳之島町亀津、松山栄作所長)。松山所長(55)は元F1レーシングカーなど精密部品の技術者。技術者として暮らしていた栃木県で小型ヘリコプターによる農薬散布の光景を目にしていた。

 

 帰郷した11年、「高齢者が多い故郷の農家のため、ドローンで農薬散布できないか」と構想を抱いた。

 

 バッテリーなど機材の開発が進んだこともあり、構想実現に向け17年5月、一般社団法人農林水産航空協会の「産業用マルチローターオペレーター技能認定」を取得。商用ドローン業界世界最大手DJI社製の農業用ドローン「AGRAS MG―1S」を九州地区最速で導入し、散布事業を始めた。

 

 ◆圧倒的な作業効率

 

 同機は最大10㍑の液剤を運搬可能。地上1・5~2㍍を飛行して農作物と一定の距離を保ちながら、四つの噴射口から均等に農薬などを散布できる。最高飛行速度は秒速8㍍。1㌶当たりの散布時間は約13分。手作業の約40倍の作業効率だ。 GPS(衛星測位システム)を搭載し、薬剤補充のため散布を中断した場合でも、位置情報を頼りに作業を再開する。このため散布漏れも防ぐことができる。

 

 作業料金は10㌃当たり2500円(薬剤費別)。バレイショを中心に、サトウキビ、キャベツ、ショウガなどの作物に対し、農薬や病害虫防除薬の散布を行っている。

 

 ドローン活用は作業効率化や農薬代の節約、薬剤の人体に与える影響の軽減、ハブの咬傷(こうしょう)リスク回避などさまざまな利点が期待できる。さらに「雨が降った翌日でも作業ができ、適期防除が可能。特に兼業農家からの評判がいい」と松山所長。

 

 作業風景を見学していた農家からの受託が増えている。17年からの1年間で作物に散布可能な農薬などの種類が増え、18年11月末時点で農家約60人から依頼があるという。

 

 ◆操縦士養成にも力

 

 

 散布作業受託に加え、力を注ぐのが操縦士の養成だ。松山所長は農林水産航空協会認定のオペレーター指導教官資格も取得し、18年3月、伊仙町農業支援センターでオペレーター教習を開設した。12月15日までに12人の操縦士を育成している。

 

 沖縄県にも教習分校を18年9月開設。19年春には約20人が受講を予定している。与論島からも資格取得を目指す4人が来島予定で、オペレーター養成需要も島外に拡大しつつある。

 

 伊仙町農業支援センターの臨時職員吉田奈津子さん(37)は、松山所長の教え子の一人。土壌分析などの業務を行う吉田さんは「高齢農家の負担を減らすため、新しい技術を習得して地域の農家に還元したかった」と資格取得の理由を話す。

 島外出張がある松山所長に代わり、送信機を操る機会も多く、散布事業をサポートする。行政的な立場として勤務している利点を生かし、散布事業を周知するなど営業所と町内の農家をつなぐ役割も担っている。

 

 18年5月にはオペレーター指導教官資格も取得。7月には教習事業に必要な農薬指導士の試験にも合格し、欠かせない人材になった。吉田さんは「オペレーターは女性でも活躍できる分野。徳之島の農業に少しでも貢献できれば」と笑みを浮かべた。

 

 ◆農業の姿、変化も

 

 現在、奄美群島内で散布事業を請け負うオペレーターは松山所長ら徳之島と与論島の計4人のみ。1島から複数の依頼があれば出張して対応することもあるが、島間の移動や降雨、強風など作業が天候に左右される側面もあり、日程的に厳しい場合があるという。

 松山所長は「指導教官の有資格者も増え、後進を育成できる体制が整いつつある。群島の各島で誕生したオペレーターが散布事業を請け負うことで、群島全体の農業の在り方が変わる可能性もある。人材育成に力を入れたい」と展望を語った。

送信機を握り、産業用ドローンを操縦する吉田さん=2018年12月15日、徳之島町亀津

送信機を握り、産業用ドローンを操縦する吉田さん=2018年12月15日、徳之島町亀津