徳之島のクロウサギ、南北で遺伝子分断

2018年10月15日

徳之島に生息する国の特別天然記念物アマミノクロウサギ(資料写真)

徳之島に生息する国の特別天然記念物アマミノクロウサギ(資料写真)

 国立研究開発法人国立環境研究所の安藤温子研究員らの研究グループは、国の特別天然記念物アマミノクロウサギについて、生息する徳之島では数千年以上前から島の南北の生息地が分断され、遺伝的交流が絶たれていた可能性が高いと遺伝解析によって明らかにした。研究グループは「絶滅が心配されるクロウサギの生態を理解し、生息地の保全策を検討する上で重要な知見」としている。

 

 アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島だけに生息する。森林開発や、マングースや野生化した猫(ノネコ)などに捕食された影響で数が減り、環境省のレッドリストで近い将来、野生での絶滅の危険性が高い「絶滅危惧ⅠB類」に位置付けられている。

 

 徳之島では現在、生息地が道路や農地によって島の南北に分断されている。小規模な集団の中で近親交配が進んで遺伝的多様性が低下し、絶滅の恐れが高まる恐れがあるとして、生息地をつなげるための対策も検討されている。

 

 島の南北の集団の遺伝的な特徴と分断の歴史を調べるため、同研究所と筑波大学、福島大学、環境省が共同で研究を進め、今年8月に米科学誌に論文を発表した。

 

 研究では同島のクロウサギのふんを採取し、得られたDNAを基に南北の集団が分断された年代を推定した。同島の生息地は最短で1キロしか離れていないが、南北の集団は異なる遺伝的情報を持ち、数千年以上にわたって遺伝的分化が進行していた可能性が高いことが分かった。

 

 研究グループは「南北の分断は、近年の林業生産や道路整備で引き起こされていると考えられていたが、徳之島が成立したころの地形特性や、旧石器時代の人による生息地の破壊などが関与した」と考察。さらに「江戸時代のサトウキビ栽培に伴う森林破壊も分断に拍車をかけた可能性がある」としている。

 

 分断された生息地をつなぐための対策については、「南北の集団はそれぞれ固有の遺伝タイプを持つ。島内の遺伝的多様性を維持するには双方の集団を維持すべき」と指摘し、慎重な議論が必要としている。