ケナガネズミが野生復帰 事故で負傷、治療50日 「生き物に優しい運転を」 奄美大島

2021年02月17日

森に返されたケナガネズミ=10日午後6時ごろ、奄美大島(奄美野生生物保護センター提供)

森に返されたケナガネズミ=10日午後6時ごろ、奄美大島(奄美野生生物保護センター提供)

 奄美市住用町の国道で交通事故に遭って負傷し、保護された国の天然記念物ケナガネズミが10日、現場近くの森に返された。地元の動物病院で約50日間の治療を受けて回復した。環境省奄美野生生物保護センターが開設された2000年以降、奄美大島で保護されたケナガネズミが野生復帰を果たすのは初めて。同センターは「元気になってよかった。もう事故に遭わないで」と喜んだ。

 

 ケナガネズミは奄美大島と徳之島、沖縄島の固有種。体の大きさが20~30センチと国内最大のネズミの仲間。尾が胴体より長く、先の半分は白いのが特徴。背中の長い剛毛が和名の由来。夜行性で主に樹上で生活している。環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠB類。種の保存法で国内希少種に指定して保護している。

 

 昨年12月20日午後9時ごろ、奄美市住用町の網野子トンネル北側の国道58号の路肩付近で、うずくまっているケナガネズミを地元住民が発見し、奄美野生生物保護センターに連絡。個体はゆいの島どうぶつ病院(奄美市名瀬)に運ばれ、獣医師が治療に当たった。

 

 保護されたのは体重560グラムの雌の成獣。右の前脚や鼻先を骨折していた。治療を続けたことで、脚にまひが残るものの、餌を食べたり、歩行や枝の上り下りができるようになり、野生に戻すことが可能と判断された。

 

 今月10日午後6時ごろ、同センターの職員らが見守る中、ケナガネズミは発見場所近くの森の奥で放された。しばらくはじっと動かなかったが、慎重に周囲を確認しながら、次第に森の中へ帰って行った。

 

 奄美大島では近年、ケナガネズミなど希少な野生生物の交通事故が多発している。同島で確認されたケナガネズミの交通事故は19年に14件と過去最多を記録。山中の林道だけでなく、国道など交通量の多い道路でも事故は増えている。交通事故に遭うと死亡することが多く、生きた状態で見つかるのは珍しいという。

 

 同センターの早瀬穂奈実国立公園管理官は「大きな道路でも生き物が出てくる可能性があると知ってもらい、特に夜間は生き物に優しいゆとりを持った運転を心掛けてほしい」と呼び掛けた。