大矢鞆音著「評伝 田中一村」発刊

2018年07月31日

芸能・文化

著者の大矢鞆音氏

著者の大矢鞆音氏

 大矢鞆音著「評伝 田中一村」(生活の友社)がこのほど発刊された。南海日日新聞の連載記事を基に一村の軌跡を追った700ページ余の大著。33年におよぶ取材データと綿密な分析で一村の画業や内面世界に深く切り込み、日本画家一村を「奄美の生物多様性を深く理解し、墨画の近代化に挑戦した南の琳派(りんぱ)」と位置付ける。

 

 「生誕の栃木と東京での暮らし」「千葉時代」「奄美時代の一村~奄美第一期」「再びの奄美~奄美第二期」の4章で構成。巻頭でカラーグラビア12ページを使い、奄美で描かれた代表作など19点を収載。巻末に一村年譜、人物相関図が添えられている。

 

 一村を知るキーワードとして①「道法自然」②水墨の味を生かした「奄美12か月」③「墨画の近代化を目指した南の琳派」ーの3点を挙げる。①は老子の言葉。人は地に、地は天に、天は道に、道は自然に従うものという意味。一村自身が19歳の時に記した花鳥画家として自然と接する際の態度。

 

 ②について著者は「奄美の生物多様性をこれほど深く理解し、見つめた画家を知らない。…色を抑えるほどに色が感じられ、内発するエネルギーが横溢(おういつ)する。…誰も描いたことのない奄美の世界観。そのうち20世紀を代表する作品群に加えられる」とする。③は明暗の対比が強い奄美の自然の力を借り、墨色を用いて奄美の空気感、湿潤を描いたこと。琳派は江戸時代の絵画や工芸、書などの流派。鮮麗な色彩と金泥(金の粉末をにかわで溶いた絵具)などを用いた装飾的な画風が特徴。

 

 大矢氏(80)は元NHK出版取締役美術部長。父、兄、弟はともに日本画家。在任中から一村の作品集を手掛け、退職後も「画家たちの夏」「田中一村‐豊饒の奄美」などを著した。2005年6月から13年4月まで南海日日新聞文化面で「新 田中一村」を218回連載。田中一村記念美術館や奈良県立万葉文化館などの設立に協力し、500点余の一村作品にふれるなど田中一村研究の第一人者。奄美来島は60回を超え、観光大使も務める。現在、美術評論家連盟会員、安野光雅美術館長。川崎市在住。

 

 4500円(税別)。問い合わせは電話03(3564)6900生活の友社。

700ページ余の大著「評伝 田中一村」

700ページ余の大著「評伝 田中一村」