コロナ下 新時代の博物館像 奄美博物館 デジタル活用で積極発信  復帰署名録など修復へ

14歳以上の群島民の99・8%が署名したといわれる日本復帰請願署名録(奄美博物館提供)

人々の社会活動や経済に大きな影響を与えた新型コロナウイルスの逆境下で、デジタルを活用した新時代の博物館像を目指そうと鹿児島県奄美市の市立奄美博物館(高梨修館長)が新たな事業に挑戦している。学芸員による奄美の歴史文化・自然の解説動画や高精細映像をネット視聴できる「奄美遺産ホームページ」は、既に50を超えるコンテンツを掲載した。来年の奄美群島日本復帰70周年を見据え、3カ年計画で所蔵資料のデジタルデータ化や修復事業も進む。これらの取り組みを紹介する。

 

奄美博物館の日本復帰コーナー

 

奄美博物館所蔵の日本復帰関連資料は408種、約1500点に上る。奄美大島日本復帰協議会本部の看板や演説時に使われた円形テーブルをはじめ、食糧配給カードや米国民政府発行の身分証明書などの個人資料、各種書簡、関連書籍などさまざまで、すべて市文化財に指定されている。

 

復帰関係資料修復事業は、2023年12月の復帰70周年に向けて20年度に始まった。

 

21年度の対象資料は(1)奄美大島日本復帰請願署名録(2)沖永良部島と与論島の2島分離反対署名録(3)名瀬中学校生徒がサンフランシスコ講和条約発効日に書いた作文集―の3種類。

 

(1)の署名活動は1951年2月、復帰運動の核となった復帰協議会結成と同時に開始された。4月25日までのわずか3カ月間で、14歳以上の群島民の99・8%に当たる13万9348人が署名したといわれる。署名録原本は自治体、地区、学校などの単位で計34冊が保存されている。

 

(2)の2島分離反対署名は52年9月、日本復帰の対象地域から沖永良部島と与論島が切り離されるという報道を受けて沸き起こった反対運動。後に誤報と判明したものの、署名録2冊には計1万3777人の署名が掲載されている。

 

(3)の中学生作文は、52年4月28日の対日講和条約(サンフランシスコ講和条約)が発効された日に書かれた文集。

 

日本への返還がかなわなかった無念を素直につづった中学生の作文集

 

当時の情勢をひもとくと、講和条約によって連合国による日本国の占領が終わり、日本国の主権が回復した半面、北緯29度以南の南西諸島は引き続き米国の占領統治下に置かれることになった。日本への返還がかなわなかったこの日を奄美では「痛恨の日」、沖縄では「屈辱の日」と呼ばれる。

 

作文集は1、3年生の計3冊が残されている。生徒たちは「大島の人々がどんなによろこんだかあなたがたに見せてあげたい」と主権回復を祝いながらも、「私たちは米軍政下(原文では信託統治下)にありますが日本人です」「日の丸を一度でいいからあげてみたい」と返還されなかった悲しみ、切実な思いを吐露している。

 

修復事業はこれらの資料をスキャンしてデジタル化し、そのデータを基に複製を製作する計画。年度内には完成する見込みだ。

 

高梨館長は「来年は復帰70年を迎えるが、当時を知る人が少なくなり、非常に危機的な状況だ。復帰資料の恒久的保存とともに、将来的には署名簿の公開も検討している」と話した。

 

22年度事業は復帰請願署名録の修復、デジタルデータを活用した教育プログラム作成に取り組む予定。

 

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奄美博物館  奄美の文化活動や学術研究の拠点として1987年7月に開館し、今年で35周年を迎える。2019年8月のリニューアルオープンでは全3階の展示構成を大幅刷新。人の暮らしと自然が密接に関わる「環境文化」の概念に、歴史的な視点を加えた。休館日は毎月第3月曜日と年末年始。奄美市名瀬長浜町517