「戦争が作品に影響与えた」 鹿大・多田准教授が島尾文学語る 県立奄美図書館

2019年11月05日

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「島尾敏雄の文学」をテーマに講演する鹿児島大学の多田准教授=4日、奄美市名瀬

「島尾敏雄の文学」をテーマに講演する鹿児島大学の多田准教授=4日、奄美市名瀬

県立奄美図書館主催の島尾敏雄記念室講演会が4日、奄美市名瀬の同館であった。鹿児島大学法文学部の多田蔵人准教授が「島尾敏雄の文学~自筆資料を手がかりに」をテーマに講演し、戦争や他の作家の作品が島尾の文学に与えた影響を考察した。

 

 講演では島尾作品「出孤島記」(1949年、雑誌『文芸』で初出)をメインの題材にした。作品は海軍の特攻隊長として「島」に駐留する「私」を主人公に太平洋戦争末期の45年8月13~14日の出来事を描いた小説。

 

 多田准教授は島尾の自筆原稿やメモ、作品内容などを基に、「戦争体験が島尾文学に影響を与えた」と指摘。「出孤島記」の執筆過程で、戦前に構想した「不条理な死の快楽の物語」と、「戦争を空虚なものとみる視点」の二つの間の葛藤があったと考察した。

 

 作品中の表現から三島由紀夫「仮面の告白」、梶井基次郎「器楽的幻覚」、カフカ「変身」など他の作家の作品の影響も推察した。

 

 講演会は島尾の命日(11月12日)に合わせて開催。市内外の約40人が聴講した。同館は19日まで島尾敏雄記念室企画展を開催し、島尾の原稿や愛用したカメラなどを展示している。