湯湾岳周辺への影響を懸念/防衛省通信施設建設計画

2018年01月25日

地域

通信施設の予定地に隣接する内閣府沖縄総合事務局の無線中継所=2017年11月、奄美大島の湯湾岳

通信施設の予定地に隣接する内閣府沖縄総合事務局の無線中継所=2017年11月、奄美大島の湯湾岳

 防衛省は2018年度、九州―沖縄のエリアでの情報伝達の迅速化を目的に、大和村と宇検村に連なる奄美最高峰・湯湾岳(694・4メートル)の山頂近くに通信施設の建設を計画している。今年夏の世界自然遺産登録への期待が高まる中、候補地周辺の環境への影響が懸念される。専門家は「アマミノクロウサギの生息密度が高く、湯湾岳特有の植物も多い場所。現状のまま保存することが望ましい」と指摘し、建設地の変更を求めている。

 

 建設予定地は大和村名音の内閣府沖縄総合事務局無線中継所に隣接する村有地。村は昨年3月、防衛省側に4962平方メートルを貸し付けることに同意した。

 防衛省航空幕僚幹部広報室によると、整備内容は高さ約50メートルと25メートルの鉄塔と通信所。九州から沖縄までの通信ルートの複線化により、大規模災害発生も含めた有事下での情報伝達の迅速化が目的。通信環境が良好で、既設の内閣府施設が使用する無線中継所の電線などインフラを有効活用できることなどが場所選定の主な理由。19年度末の完成を予定しているという。

 

 湯湾岳には、国の特別天然記念物アマミノクロウサギなど、希少種や固有種も含め多様な動植物が生息・生育している。山頂付近は昨年3月に誕生した奄美群島国立公園の中でも、特に厳重に生態系の維持を図る特別保護地区。今年夏の登録が期待される「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産の推薦区域となっている。

 

 予定地は山頂から東へ約1キロ。特別保護地区と境界を接し、国立公園の第2種特別地域に区分されている。特別保護地区と特別地域はともに、自然公園法で工作物の建築が規制される。第2種特別地域の中でも、野生動植物の生息・生育地として重要な地域は、最も規制の厳しい特別保護地区に準じた保護が必要とされる。

 

 施設の整備は、展望の著しい妨げにならず、学術研究など公益上必要であり、他の場所では目的を達成できない場合に特例として認められ、環境省の同意が必要だが、同省は「(防衛省側から)具体的な話は来ていない」としている。

 

 「すぐそばが特別保護地区で、希少な動植物が多数確認されている。景観上も巨大な構造物が広い範囲で見えてしまうだろう」

 

 環境省希少野生動植物種保存推進員で、東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設の服部正策特任研究員は、施設整備の計画に懸念を示した。

 

 服部氏は昨春、防衛省の環境調査を担う民間会社の依頼で現地に入り、大量のアマミノクロウサギのふんや複数の希少な植物を確認。昨年11月下旬には予定地に隣接する特別保護地区内で、種の保存法で国内希少種に指定されたコゴメキノエランや、奄美大島固有のフジノカンアオイなど、絶滅の恐れのある植物を確認した。

 

 服部氏は「(施設を)建てることで、そこにある植物や動物の生息場所は失われてしまう」と指摘し、「奄美のシンボルの山。信仰の対象にもなっている。なるべく影響がないことが望まれる。立地場所を考えてほしい」と求めた。

 

 施設建設を巡っては昨年12月22日、公益財団日本自然保護協議会(本部・東京)が防衛省に対し、計画撤回を求める小野寺五典大臣宛ての意見書を提出。同省は、南海日日新聞の取材に「(意見書への)回答は予定していない」とした上で、「環境保全に最大限配慮するとの観点から、関係省庁と調整のうえ、自然環境への影響を最小限に抑え、計画を進めている」としている。

通信施設予定地のすぐそばの世界自然遺産推薦区域に生えるフジノカンアオイ=2017年11月、奄美大島の湯湾岳

通信施設予定地のすぐそばの世界自然遺産推薦区域に生えるフジノカンアオイ=2017年11月、奄美大島の湯湾岳