闘牛が育む絆 三原さん、キズナ號と共に 瀬戸内町古仁屋

2021年01月01日

地域

海岸で闘牛「雷神」を散歩させる三原さん家族ら。その様子を見つけ、すぐに観光客や住民が集まった=20年12月13日、瀬戸内町

海岸で闘牛「雷神」を散歩させる三原さん家族ら。その様子を見つけ、すぐに観光客や住民が集まった=20年12月13日、瀬戸内町

 瀬戸内町古仁屋の三原安行さん(60)、菊代さん(50)一家は、同町で闘牛「憚(はばか)り戦士雷神桜道(らいしんおうどう)キズナ號(ごう)」(雄、4歳)を育てている。奄美大島本土で闘牛を育てている家庭は珍しく、牛の健康管理や試合に向けたトレーニング、地域の理解を得るのに苦労する一方、闘牛を通じた新たな出会いや交流を広げている。

 

 三原家が闘牛を育て始めたのは2008年。天城町出身の安行さんが家族を連れて帰省した際、同級生が勧めてくれた子牛に菊代さんが「一目ぼれ」。瀬戸内町に戻ると、自分たちで3カ月かけて牛舎を造り、子牛を迎えた。

 

 子牛は当時1歳6カ月。「癒やしを与えてくれる彼(牛)」との思いを込め、名前は「天空三ナグサミ號」と付けた。安行さんは20代の頃に闘牛を持っていた経験があるが、瀬戸内町出身の菊代さんは初めて。「ただ動物が好きで飼えたらいいなと。このつぶらな瞳にだまされてしまった」と笑う。

 

 天空三は2勝2敗の戦績を残した後、徳之島の闘牛主に譲った。最初に育てた天空三への思いは強く、新型コロナウイルス感染症拡大が落ち着いたら、20年2月に徳之島で生まれた天空三の子を迎え入れることが決まっている。

 

 雷神は2代目で、17年6月に徳之島から連れてきた。デビュー戦は感染症の状況次第だが、21年5月を予定している。その一戦に向けて週1回、砂地を歩かせ、体力と筋力づくり。半年に1回は徳之島に連れて行き、牛を相手にした練習や集中トレーニングを行っている。

 

 安行さんは「闘牛のデビューは普通5歳か、遅くて6歳。雷神はまだ早いが、体が大きくなり過ぎている。勝っても負けても、一度は試合を経験させたい。角使いがいい」と期待する。一方、菊代さんは闘牛の試合にまだ慣れないようで「勝ち負け関係なく、相手が決まったときからいつも眠れない。『勝って来い』と送り出すのではなく、『けがしないで帰って来てね』という気持ち」と複雑な心境を明かした。

 

 菊代さんは闘牛を育てる様子をSNS(会員制交流サイト)で発信。時折、SNSを見た観光客が牛を見たいと牛舎を訪れる。町内にファンもいて、闘牛を通じた島内外の交流の輪が広がっている。

 

 「そもそも牛を飼いだしたら、町に観光客を足止めできないかとの思いもあった。雷神の名前にある『キズナ』は、人とのつながりへの感謝を込めた。そのつながりで今の調教師との出会いがある。絆を大切にしたい」と菊代さん。安行さんは「いつか古仁屋で闘牛の興行をしたい」と夢を語った。