「島に残りたい」 未経験の〝全島避難〟あなたは? 沖永良部島、初の国民保護訓練

2025年01月30日

政治・行政

自宅にとどまることを希望する「残留住民」役の男性(右)と避難を呼び掛け説得する自治体職員=28日、知名町

「私は島に残りたい」─。庭の椅子に腰掛け、固く口を結んだ男性。自治体職員が穏やかな声で避難を諭す。男性はうつむきがちな表情のまま、ゆっくりと立ち上がった。「一人だけになると寂しくなるから、仕方がない」。

 

28日、沖永良部島で初めて住民が参加する国民保護実動訓練が行われた。「奄美大島以南が、某国からの攻撃目標となり得る」。政府が沖縄県と奄美群島の住民を域外へ避難させる必要があると判断した、との想定だった。訓練のための仮定で、関係者も沖縄・奄美の一斉避難は「極端な想定」とみる。2024年4月時点での住民は和泊町6004人、知名町5390人。奄美群島全体では10万1551人。「全島避難」は過去にない。

 

訓練後の講評で県は「住民参加により国民保護について理解促進を図れた」とした。訓練に参加した知名町屋子母の青木経二区長(70)も「やって損はない。台風など災害避難にも役に立つ訓練なのでは。全島避難となったら、島の人たちはどんな反応を示すだろう。何人が船に乗れるのか、何日かかって避難できるのか。その試算のためにも、訓練は必要と思う」と理解を示した。

 

今回の訓練に参加した住民は和泊、知名の2町合わせ約30人。対象を絞った理由を町側は「まずは集落区長や自主防災組織の担当者に国民保護について知ってもらうことが大切と思い、参加を呼び掛けた。区長たちの理解があった上で、各集落にも理解が広がれば」と考えたという。

 

島内の住民に今回の訓練について尋ねると「知らなかった」「いつ、どこでやってたの」「国民保護って何」との声が返ってきた。訓練前日のテレビ局の取材を通じ、初めて実施を知ったという和泊町の飲食業、玉井志津香さん(37)は「私も疎いけれど、島は平和ぼけしているので訓練はやったほうがいいと思う。子どもたちに今の状況を知ってもらうためにも、今後も訓練があるなら参加すべきかなと感じる」と話した。

 

和泊町のキビ農家、本部輝久さん(77)は「島外避難しても潜水艦にやられるだけ。シェルターを造るほうがまし。もっと島の人に寄り添ったことをしてほしい。沖縄戦の犠牲があったのだから国や県、地元行政はもっと危機感を発信すべき」と憤った。夜のニュースで訓練があったことを知った妻の玲子さん(68)は「私は訓練の意味はあると思う。だが訓練するのならもっと周知を図り、住民の関心を集めてほしい」と話した。

 

農業と畜産業を営む知名町正名の西登美勝区長(63)は「命が第一」として島外避難には同意するものの「生き物だから」と家畜の心配ものぞかせた。奄美信用組合沖永良部支店の徳田和光支店長は「お金は必要ですから。残っている人がいる限り、僕らは最後までやれることをやらないといけない」。残留住民の説得に当たった和泊町職員は「多くの人が避難する中、それでも『島に残りたい』と言う人には相当な覚悟や理由があるだろう。説得はかなり難しいと思う」と振り返った。

 

避難時、島に残る財産の補償はどうなるのか。生活インフラはいつまで維持できるのか。住民理解には「回答」が求められる。地元自治体だけで答えの出せない〝問い〟は山積する。

 

評価官として参加した瀬戸内町の土井一馬防災専門監は、訓練後の講評で「まずは各自治体が避難実施要領を早急に作成することが必要。そのうえで各島内、群島内で調整し、県とスムーズに連携できるよう準備しなければと痛感した。次の訓練を待つ猶予はない」と関係者へ訴えた。知名町の今井力夫町長は「実動訓練の結果、避難時の本人確認や集合場所での急患対応など新たな課題が見えたことに感謝している。今後も安心、安全に島民避難できる方針を協力して考えていけたら」と話した。

(佐藤頌子)