「蓬莱の海へ」出版 与論2世の青山さん、台湾2・28事件の実相に迫る

2021年10月11日

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台湾2・28事件の実相に迫る「蓬莱の海へ」

 与論2世の青山惠昭(けいしょう)さん(78)=沖縄・浦添市=は9月、「蓬莱の海へ│台湾二・二八事件失踪した父と家族の軌跡」(ボーダーインク)を出版した。青山さんの父親は与論島出身。戦後、台湾で起きた「2・28事件」の犠牲者だ。本書は事件の実相に迫るとともに、奄美・沖縄・台湾のはざまで漂流した家族の軌跡を描いた。「非琉球人」の項は沖縄在住の奄美出身者が体験した苦難を証言した。

 

 台湾2・28事件は戦後、台湾を接収した国民党政権が住民の抗議行動を武力で制圧した事件。1947年2月28日、闇たばこの取り締まりをきっかけに始まった。死者は2万人余とも言われるが、国民党独裁時代はタブー視されていたこともあり、全容解明には至っていない。台湾の民主化に伴い、95年に政府が公式に謝罪した。青山さんは事件の犠牲になった父親の補償を日本人として初めて勝ち取り、他の犠牲者の訴訟にも取り組んでいる。

 

青山惠昭さん

 本書は①台湾二・二八事件と漂流家族②失踪宣言と逆転勝訴③台湾と沖縄の未来へ│の3部構成。①は事件の概要、家族の状況。青山さんは父親の失踪後、母親の古里、沖縄北部で暮らした。本籍が与論だったため、奄美の日本復帰後、「非琉球人」となり、さまざまな制約、差別を受けた。母親が病に倒れた際、「救済」(生活保護)を申請したところ、米国民政府は非琉球人を理由に拒否されたこともある。周囲の支えで暮らしていけた。

 

 ②は訴訟の経過。父親の三十三回忌を経て那覇家庭裁判所で失踪宣言が確定したこと、台湾当局が補償を認めるまでの経緯をまとめた。③は沖縄・日本の犠牲者についての新資料、証言を収録。沖縄と台湾の未来へのメッセージを記した。

 

 本書は税込み2420円。https://borderink.com/ボーダーインク。