街中に暮らしの保健室、医療者開設 社会の病「孤独」治す一助に 奄美大島

2022年10月02日

地域

研修医や医大生ら(左側)が商店街を歩く人に声を掛けて飲み物を手渡し、対話する活動「奄美暮らしの保健室」=9月24日、奄美市名瀬

全国各地で行われている地域支援の取り組み「暮らしの保健室」が奄美大島でも始まっている。手掛けるのは島内外の若手医師や研修医、医大生ら。街中で通行人にコーヒーやお菓子を配り、何気ない会話から健康面の悩みなどに耳を傾ける。旗振り役の県立大島病院産婦人科・小徳羅漢医師(30)は「治療や薬で治せない孤独という病を治す『社会的処方』になり得る」と期待する。

 

■「話を聞かせてください」

 

9月24日、奄美市名瀬の中央通りアーケードで「奄美暮らしの保健室」が開かれた。今年8月に続いて2回目。全国から研修医や医大生ら6人が集まり、通り掛かった30人余りと会話を交わした。

 

この日参加した研修医や医大生らは、いずれも離島医療をテーマに活動する任意団体「グローカランド」のメンバー。代表を務める沖縄県立宮古病院研修医の大見謝望さん(26)は「離島医療に関するニーズを探りたい。住民側も医療を身近に感じてもらえたら」と思い参加した。

 

病院や医者は敷居が高い│。こうしたイメージを払拭(ふっしょく)するための取り組みでもある。この日、立ち寄った住民が自らの健康面を語る場面はほとんどなかった。聖路加国際大学(東京都)看護学部4年の古都遥さん(21)は「気軽に健康相談できる環境、関係づくりは難しい」とこぼした。

 

一方、好奇心から近寄ってくる子どもを糸口に会話が広がる場面も。父親の体力測定を行い、良好な結果に「子どもとの遊びが体力づくりですね」と盛り上がった。名古屋市立大学(愛知県)医学部6年の業天一生さん(33)は「心の距離を縮めるヒントが得られた」と振り返った。

 

■「誰もができる取り組み」

 

「病院に行けない、行かない人たちはいる」。活動発案時から関わる県立大島病院研修医の三島一乃さん(27)は天城町与名間出身。急病を患いながら島外搬送できず亡くなる親族らを幼少期から幾度となく目の当たりにし、離島医療の難しさ、大切さを心に刻んで医療を志した。

 

初回活動時には「一人暮らしで寂しい」「病気が判明して不安」といった住民の悩みも聞かれた。「病気だけでなく『人』を見る医療者」を目指す三島さん。「病院では学べないこともある。視野を広く、地域の声に耳を傾け続けたい」と力を込めた。

 

医療者が病院以外で住民と対話する意義について、小徳医師は「診療行為はできないが、『病院に行った方がいいのか』を伝えられる。重症化の予防にもつながる」と話す。ドクターヘリ導入などで強化された奄美の急性期医療に対し、この活動は身近に相談しやすい総合医療「プライマリ・ケア」を担えるという。

 

奄美大島で始めた「暮らしの保健室」を「資格はいらない、誰もができる取り組み」と評する小徳医師。「出会った人の悩みと向き合う中で、助言する自分の心も軽くなった。医療者に限らず活動に関わる人の輪が広がり、奄美各地に活動が広まっていったらすてきだと思う」と語った。

 

「暮らしの保健室」は2011年、東京都で始まった。▽暮らしや健康に関する「相談窓口」▽在宅医療や病気予防について「市民との学びの場」▽受け入れられる「安心できる場」▽世代を超えてつながる「交流の場」▽医療や介護・福祉の「連携の場」▽地域ボランティア「育成の場」-の六つの機能がある。