奄美の魚、全国へ 鮮度保持技術を確立 奄美漁協と与論漁協
2018年01月02日
社会・経済
奄美近海で取れた魚が全国へと流通され始めた。奄美漁業協同組合(柊田謙夫組合長、本所・奄美市笠利町)は、船上での活(い)け締めと血抜き処理と最新の鮮度保持技術を活用した鮮魚の島外出荷体制を本格化。与論町漁業協同組合(町英八郎組合長)は独自の漁獲管理で鮮度の低下を抑えた冷凍魚の技術を確立し、出荷に向け着々と準備を進めている。全国各地で奄美産の新鮮でおいしい魚が食べられる時代がやってきた。2漁協の取り組みを紹介する。
◆船上沖締めが高評価 奄美漁協
奄美漁協は笠利地区で約20年前から一部の漁師たちが魚の鮮度を保つため船上で活け締めと血抜き処理する沖締めを施し、沖縄や鹿児島の市場に出荷してきた。2014年3月に沖縄の大手スーパー「サンエー」と市場を介さない相対取引を開始し、翌年4月には同地区の全漁船が沖締めを導入してブランド確立に取り組んでいる。
16年度にはナノサイズの気泡「ウルトラファインバブル(UFB)」で作り出す超低酸素水の装置を九州各県内の漁協でいち早く導入。肉眼では見えない泡で魚をコーティングして真空パック状態にすることで、魚の酸化や菌の増殖を抑制している。沖締めした魚にUFB装置を活用することで、鮮度のよい魚を遠隔地の消費者に届けている。
水揚げからサンエーの店頭に魚が並ぶまでは船便で3日かかるが、同漁協の原永竜博参事(55)は「鮮度は保たれており、むしろうま味が増す」と胸を張る。
サンエーで開催された試食販売会では「食感も良く、かむにつれて甘味が出てくる」「身がぷりぷりして締まっていておいしい」と消費者から絶賛された。サンエー側も相対取引で取れた分だけ購入してくれるという。
サンエーとの取引だけでも、14年度2470万円、15年度3670万円、16年度4070万円と年々増えており、17年度も前年を上回るペースで推移。取り扱う魚種も徐々に増えて、現在はウンギャルマツ(アオダイ)やイナゴ(ヒメダイ)、アカマツ(ハマダイ)など20種類にもなるという。
16年7月には羽田空港近くにある「羽田市場」への空輸も開始。サンエーでは扱わない1トン前後の小型漁船が狙う魚種も市場に出せるようになり、漁師の持ち帰りなどの無駄も軽減された。羽田市場を通じてシンガポールなど海外へも流通しだした。
「大手との取引で所得安定が図られている。組合員の出漁意欲にもつながっており、後継者の問題もない」(原永参事)。船上での沖締め処理などの手間で1航海当たりの効率は悪いが、漁獲は減っても収入は上がっており、資源保護の観点からも有益だ。「奄美鮮魚 笠利産」の商標登録も申請中で、ブランド化へ大きく歩を進めている。
◆鹿大と共同で冷凍技術開発 与論町漁協
与論町漁協は、鹿児島大学の協力を得て、高品質の冷凍切り身の製品化に成功。島内でしか消費できなかったシビ(キハダマグロ)やカマスサワラなどを全国に向けて販売する準備を着々と進めている。
同漁協は2011年に鹿児島大学水産学部の木村郁夫教授(63)と共同で高品質冷凍魚の研究を開始した。木村教授は大手水産会社の研究員として魚の冷蔵・冷凍の技術開発に取り組んできた経験を持つ。
木村教授が着目したのはアデノシン三リン酸(ATP)。動物の細胞にあるエネルギー源となる物質で、鮮度に直結する働きがあるという。このATPが保持されている魚は鮮度が良いということになる。
試行錯誤を重ねた結果、15年には船上で魚を締め、3~4時間以内に切り身に加工して真空パックし、マイナス35度で急速凍結することで鮮度を保持する技術を確立。同年夏に島内の観光業者らを呼んで試食会をしたところ、取れたてのような鮮やかな色と、水揚げ直後と変わらないぷりぷりとした食感に驚いたという。試食は4カ月半前に冷凍したものを使用した。
この「ATP魚」の製品化に向け、漁協は冷凍機などを購入して体制を整備。課題となっていた島外への流通についても、全国に59カ所の営業所を持つ西原商会(鹿児島市)が扱ってくれることになり、本格的な出荷へ大きく前進した。
木村教授は「(高品質冷凍魚の技術確立は)離島の水産物の弱い部分を補え、新しい流通形態を整えることができる。与論島の活性化に役立ててほしい」と話した。同漁協の町組合長(71)や箕作広光参事(55)は「漁師がせっかく取ってきた魚を無駄にするのが悲しかった。量の確保などが課題だが、漁協を挙げてしっかりと体制を整えていきたい」などと語った。
西原商会の担当者は「レストランや居酒屋、ホテルなどに提供していく予定。与論のおいしい魚を全国に広げていきたい」と話した。