ホロホロ鳥、特産化へ 両陛下も満足された美食 鹿児島県与論町

2018年01月03日

社会・経済 

与論島で食肉事業化に向けた取り組みが行われているホロホロ鳥=2017年11月、与論町茶花

与論島で食肉事業化に向けた取り組みが行われているホロホロ鳥=2017年11月、与論町茶花

  アフリカ・ギニア地方原産のホロホロ鳥は本来、熱帯地方に生息するキジ科の鳥だ。日本ではなじみが薄いが、主にフランスなどヨーロッパでは高級食材として需要が高い。そのホロホロ鳥の特産化に向けた試みが、与論島で進められている。2017年11月に天皇、皇后両陛下が同島を初訪問された際は、昼食の料理に与論産のホロホロ鳥が使用され、話題となった。「両陛下も満足された美食」として注目されるホロホロ鳥事業化の取り組みを追った。

 

 ■事業の経過

 

 ホロホロ鳥の食肉化事業に取り組んでいるのは、日本マルコインターナショナルグループに属する、ヨロンアイランドファーム(株)(本社・与論町茶花)。航空・防衛・宇宙分野の電子部品を製造する日本マルコ(本社・横浜市)の与論事業所敷地内に飼育施設がある。17年11月末現在、成鳥500羽、若鳥700羽、ひな500羽の計1700羽を飼育している。

 

 同事業所は08年に操業を開始。電子部品の製造業務などで、これまで比較的若い世代の雇用確保に貢献してきたが、「高齢者ら幅広い世代の雇用の場を」との地元の要望に応えようと、ホロホロ鳥事業がスタートした。

 

 事業化に向け、2013年から生体・飼育方法などの基礎知識調査、視察、研究飼育など進め、14年に人口ふ化から育てた成鳥の飼育を確立。15年から食肉用ホロホロ鳥の研究を行い、16年に大型ふ化機の導入、フランスでの飼育技術研修などを経て、現在の量産・生産体制を確立させた。

 

■課題

 

 ホロホロ鳥は、もともと熱帯地方に生息しているため、国内での飼育事例は極めて少ない。寒さに弱いことに加え、非常に神経質な鳥で知られる。

 

 事業化にあたり、「ホロホロ鳥の飼育は難しい」との社外からの助言も多かったというが、「『難しい』と言われれば逆に燃える。そこに商機があると考えるのが私たちの会社」と現場管理者の池田一和さん(45)は語る。

 

 実際に苦労は多い。臆病で神経質なホロホロ鳥は施設に近づく野鳥や、野良猫にも敏感に反応。群れを成して一斉に動く性質から、驚くと一カ所に集まり、一度に数匹が圧死してしまう事故がたびたびある。昨年の台風の際も一定の被害があったという。

 

 毎日顔を合わせる飼育員に対しても警戒を解かず、飼育作業はできるだけ少人数で、鳥を刺激しないよう慎重に行われている。また雄と雌を外見では区別できず、雌雄の割合が把握しづらいことも、事業化が難しいとされる要因という。

 

■天皇陛下も召し上がった美食

 

 高級食材として主にフランス料理などに用いられるホロホロ鳥。事業化の推進にあたり、昨年4月に町内で試食・祝賀会が開かれた。しゃぶしゃぶなどホロホロ鳥を使った料理が振る舞われ、出席者からは「肉に臭みや癖が全くない」「軟らかく、とろけるような食感で食べやすい」と好評だった。

 

 同年11月に天皇、皇后両陛下が来島された際は、両陛下の昼食のメニューに与論産ホロホロ鳥の煮物が出された。

 

 昼食を共にした同町の山元宗町長は「天皇陛下がおいしそうに召し上がっていたのが印象的だった。皇后さまはホロホロ鳥にまつわる思い出話をされるなど、和やかな食卓だった」と振り返り、池田さんは「素材には自信があったが、満足していただけたことを伝え聞いた時はうれしかった」と胸を張った。

 

■展望

 

 ホロホロ鳥の食肉化事業に向けて、昨年8月に同社と与論町は立地協定を締結。町が有償で貸し出した土地に食肉加工場を整備、今年3月からの供用開始を予定している。事業の本格化に合わせ、昨夏に前身の「日本マルコデータ」から「ヨロンアイランドファーム」へと社名も変更した。

 

 食肉加工場の建設は、首都圏を中心とした高級飲食店など全国販売の展開を見据えた。当初計画によると、操業初年度は7人の新規雇用、年間2300万円の売り上げを見込む。

 

 現在、同社では正社員2人に加え、飼育員4人、また障がい者を2人雇い、常に2~3人のローテーションで飼育作業などの業務を行っている。事業規模の拡大に合わせて従業員を増やすほか、将来的には与論島を中心に、奄美群島内でホロホロ鳥を飼育する委託農家も増やしていきたい考え。

 

 池田さんは「与論島産の土産と言えば、マンゴーやモズクを連想するが、そこにホロホロ鳥も加わるようにしたい。例えば羽根や肉を使った新たな特産品の開発など、自社だけでなく、多くの人を巻き込み、協力してもらって島全体で与論産ホロホロ鳥のブランド化に取り組めたら」と展望を述べた。

与論産のホロホロ鳥を使った料理の試食・祝賀会=17年4月、同

与論産のホロホロ鳥を使った料理の試食・祝賀会=17年4月、同