戦時下の思い 知って 体験描いた水彩画展 徳之島町母間
2025年03月23日
地域

会場で作品展示に見入る来場者たち=22日、徳之島町母間
「お父さん行かないで! 行ったら死んでしまうよお」―。幼少期を戦時下で過ごした徳之島2世の男性の水彩画展「戦世(いくさよ)を生きて~神戸空襲から奄美群島祖国復帰までの足跡~」が、徳之島町母間の花時名公民館で開かれている。作者は、元小学校教諭の有田義孝さん(83)=姶良市加治木町。展示されている80点の作品は鮮烈な記憶に基づいて描かれ、自身の体験も文章で書き添えた。有田さんは「当時のことを多くの人に知ってもらいたい」と話している。
有田さんは1941年、神戸市生まれ。幼いころに父親は出征して帰らぬ人となり、戦後、両親の出身地の徳之島に母、兄との家族3人で引き揚げた。

父の帰りを待ち続けた日々を描いた場面(「戦世を生きて」より)
作品に描かれているのは出征する父との別れのシーンや神戸空襲の夜、戦後の闇市の様子、父の帰りを待ち続けた日々や米軍統治下にあった徳之島での暮らし。「鮮烈な記憶」という有田さんの脳裏の風景が詳細に描かれ、添えられた文章には当時の細やかな感情がつづられている。
有田さんは退職後、数々の病に見舞われながらも、「時代に影響された自分の歴史を形として残したい」と、入院中に制作を開始。「(作品を)制作していると病気のことが忘れられた」という。約3年をかけ、2022年に完成した。
有田さんは作品の後書きに「動機の根底には非戦、平和への強い願いを込めた」と記す。有田さんの親族と一緒に作品展を企画した徳之島町の吉澤澄恵さん(80)は「絵や文章の内容がとても詳細で、当時のことを思い出す。親や先祖がこうして生き延びてきたからこそ今がある。若い人たちをはじめ、多くの人に見て知ってほしい」と話している。
花時名公民館での展示は午後1~6時、25日まで。要望があれば作品を貸し出すことも可能という。問い合わせは0997(84)0378盛山秀仁さんへ。