クロウサギ生息地に異変 ソテツ害虫が影響 個体数減少など懸念 奄美大島

2025年04月28日

枯れたソテツの根元で餌を探すアマミノクロウサギ=2025年3月1日、奄美大島(勝廣光さん撮影)

「国の特別天然記念物アマミノクロウサギの生息地に異変が起こっている」。奄美市笠利町の希少野生動植物保護推進員、勝廣光さん(77)が南海日日新聞社へ写真を寄せた。ソテツの葉や幹、根に寄生して枯死させる外来種「ソテツシロカイガラムシ」(通称CAS)の影響で、観察を続けている奄美大島のクロウサギの巣周辺の景色が一変しているという。勝さんは「巣や通り道を隠すソテツがなくなってしまえば生息域の縮小や個体数減少にもつながる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 

カイガラムシは植物に付着して幹や枝、葉の汁を吸って弱らせる害虫。東南アジア原産で、成虫の雌は2ミリ程度の白い介殻(かいがら)を背負う。ソテツ科植物の葉や幹、根にも寄生し、地下60センチでの生息確認もある。雌1匹から100匹以上に繁殖するとされ、被害が進むと葉が黄変、やがて全体が黄白色~褐色になり、激しい場合は枯死する。

 

これまでに米国フロリダ州や台湾、グアムで大きな被害が発生。奄美大島では2021年夏に奄美市名瀬の一部地区で少数のソテツ被害が確認され、22年末、調査した県森林技術総合センターが国内初確認のCASと発表した。瀬戸内町加計呂麻島でも24年11月、喜界島では25年1月に被害が初確認されている。

 

勝さんは1991年から奄美大島の海岸線にあるクロウサギの生息地に通い、自動撮影カメラなどを使って同じウサギの一族の暮らしを追っている。勝さんによると、巣穴や通り道の近くにあるソテツ群生地では23年の冬ごろから葉の一部が変色し始めた。そのまま翌年の春も新芽が成長せず、25年春までに一帯のソテツはすべて黄色く枯れ込んだという。

 

勝さんが管理する自動撮影カメラの映像にはクロウサギのほか、ルリカケスやハブ、アマミトゲネズミなど多くの生き物が写り込み、それぞれが驚くほど近い場所で暮らしている様子が分かる。

 

勝さんは「ソテツがなくなれば日光や風が直接地面に当たるようになったり、土砂をとどめる機能がなくなったりして環境が変わる。ウサギが生息できなくなる可能性がある」と語り、害虫のまん延に強い危機感を示した。