ウミガメの足跡 奄美自然紀行②
2020年06月28日
奄美各地の海岸でウミガメの産卵が本格化している。陸へ上がったウミガメは、砂浜に大きな穴を掘り、長い時間をかけて100個以上もの卵を産み落とす。2カ月ほどでふ化した子ガメは、砂の中から海へと旅立って行く。
生まれた浜に戻り、産卵するといわれるウミガメ。一生のほとんどを海で過ごし、その生態は謎に満ちている。梅雨から夏へと向かう夜の浜で、カメたちが織り成す命のドラマはとても神秘的だ。
5月中旬、龍郷町の安木屋場海岸で、キャンプ場に迷い込んだアオウミガメが住民らに救助された。上陸、産卵状況の調査をしていた奄美海洋生物研究会の興克樹会長(49)が発見し、地元のダイビング事業者や住民に協力を呼び掛けた。
カメは甲長95センチ。資材の上で立ち往生していた巨体を、駆け付けた住民10人余りが力を合わせてコンテナに移し、浜へ運んだ。波打ち際の近くで放しても、なかなか動き出そうとしないウミガメに、「頑張れ」と声援が飛んだ。住民らに見守られながら、カメは一歩一歩前に進み、やがて海へ帰って行った。
浜にはできたばかりの足跡が残されていた。海へ続く蛇腹のような模様は、規則的に並んでいる。アオウミガメは左右の足を同時に動かして進むため、足跡は左右対称になるらしい。
「足跡を調べることで、ウミガメの種類が分かる。上陸と産卵の状況を知る重要な手掛かりだ」と興会長は話す。
奄美で産卵するのは主にアカウミガメとアオウミガメ。頭が大きく、甲羅が赤褐色のアカウミガメに対して、アオウミガメは小さく丸い頭に、丸みを帯びた甲羅が特徴。左右の足をバタフライのように動かすアオウミガメに対して、アカウミガメはクロールのように交互
に動かすため、足跡は互い違いになるという。
興会長は2012年4月、仲間と奄美海洋生物研究会を立ち上げ、奄美大島の上陸、産卵状況を調べる取り組みを始めた。島内では県のウミガメ保護監視員らによる調査が行われていたが、陸路のない浜も多く、長い間、ウミガメがどのくらい産卵しているのか全容は分かっていなかった。
行政や地域住民とも協力して、100カ所に上る未調査の砂浜も調べた結果、島内全域の状況が初めて明らかになった。各島で行われている調査と合わせて、ウミガメの産卵回数は奄美群島全体で全国の約1割を占めることが分かった。
今年は安木屋場海岸で4月14日に初めてウミガメの足跡が見つかり、産卵が確認された。上陸、産卵は7月にかけてがピークで、8月ごろまで続く。
「どこの浜でも産卵する可能性はある。足跡を見つけて、身近な存在と知ってほしい」と興会長。ウミガメは約2週間おきに上陸し、シーズン中に数回、同じ浜で産卵することもあるという。足跡を手掛かりに、ウミガメと出会えるチャンスがあるかもしれない。
ウミガメが逃げてしまわないように、夜の浜ではライトに赤いフィルムをかぶせて使うことや、上陸したカメを見つけても近づかず、産卵が始まるのを待って静かに見守るなど、観察には注意が必要だ。