規制なき昆虫の大量採集 伊仙町は届け出制に 世界自然遺産1年(中)「命輝く森」

2022年07月29日

世界自然遺産

昆虫採集用のトラップが見つかった町道=2日、伊仙町

「あれはついてますね。いるでしょ、クワガタ」

伊仙町検福の町道沿いで、県希少野生動植物保護推進員の徳崇光さん(68)が樹上を指さした。

 

5メートルほどの高さの樹の枝に、茶色っぽい袋状のものがぶら下がっていた。昆虫をおびき寄せるために、バナナをストッキングに入れて木の枝にぶら下げる「バナナトラップ」と呼ばれるものだ。

 

■相次ぐ捕獲わな設置

 

台風が接近していた7月上旬、徳さんの希少種保護パトロールに同行した。道路沿いでは、20~30㍍くらいの間隔で同様のトラップ(わな)が幾つも仕掛けられていた。強風のせいで路上に落ちたものもあり、拾い上げるとトクノシマノコギリクワガタがついていた。

 

町内では6月下旬から、昆虫採集用のトラップが相次いで見つかり、これまでに約50個が確認されている。

 

徳さんは「一つのトラップに何十匹も掛かり、根こそぎ採っていく。昆虫がどんどん少なくなって、昔ながらの自然が失われてしまうのでは」と表情を曇らせ、「条例で保護されている種ではないし、国立公園の外は規制がない。トラップの設置自体を規制できないだろうか」と話した。

 

島内3町は条例で昆虫を含む希少な動植物を指定して捕獲や採取を禁止しているが、トクノシマノコギリクワガタは対象になっていない。大型で独特な赤色の個体もいるのが人気のようで、昆虫を販売するウェブサイトでは「天然」とうたって、雌雄のペアが数千円で売られていることもある。

 

「世界自然遺産になった生物多様性の島に来て、捕って帰って商売する。それが許せない」と徳さんは憤った。

 

■目的や数量、申請求める

 

徳之島では昨年夏も大量のトラップが見つかった。国立公園内に無許可で設置されていたり、条例で捕獲が禁止された希少なクワガタが掛かっていることもあったが、大半は国立公園の保護区域外など法令違反にならない事案だった。

 

トラップが腐って悪臭を放ったり、景観が悪くなるなど、住民からの苦情が相次いだことを受けて、3町は名前や連絡先などを知らせるように、トラップ一つ一つに注意札を付けた。持ち主からの連絡はなく、トラップは回収されたという。

 

島内でも国立公園の保護区域が少ない伊仙町は、トラップの設置が多くみられるという。今年もトラップが見つかったことを受けて、町は7月に入って設置の届け出制を導入した。

 

町道や農道など、町が管理する場所にトラップを設置するには、事前に目的や数量、採集対象種などを申請する必要があり、設置の際に町の確認済み証の掲示を求めた。無届けの場合は町が回収する。

 

町きゅらまち観光課によると、制度の導入後、無届けのトラップが見つかったが、連絡を求める注意札を付けると回収された。これまでに法令違反の事案は確認されていないという。

担当者は「昆虫採集は自然環境や地域住民に配慮するなどマナーを守ってほしい。届け出制度は改善しながら続けていきたい」と述べた。

強風で落下したトラップ。トクノシマノコギリクワガタが付いていた=2日、伊仙町