「奇跡のスブネ」展示始まる 愛媛県から100年ぶり里帰り 奄美市住用町

2024年06月03日

芸能・文化

奄美大島に里帰りしたスブネと原野耕三館長(左)、宮川淳一郎さん(中央)ら=2日、奄美市住用町

奄美市住用町の原野農芸博物館(原野耕三館長)で2日、企画展「漂流の丸木舟と海外への憧れ」が始まった。展示の目玉は、100年ほど前に奄美大島から愛媛県宇和島市の日振島に流れ着いたとみられる「スブネ」(長さ約5・1メートル、幅約60センチ、高さ約45センチ)。戦災を乗り越え、2019年に宇和島市の画家宮川淳一郎さん(83)から同館へ寄贈された。この日は宮川さんも同館を訪れ、数奇な運命の末、奄美に里帰りした舟の初展示を関係者と共に喜んだ。

 

「スブネからエネルギーを感じ、絵にしないといけないと思った」と話す宮川淳一郎さん(右)=2日、奄美市住用町

スブネは一本の木をくりぬいて制作され、船首と船尾の区別がなくU字型の断面が特徴。外海に出る船首が細い奄美の板付け舟や沖縄のサバニとは異なり、スブネは川や湾内など比較的波が緩やかな場所で、1960年代ごろまで奄美群島各地で利用されていた。

 

宮川さんやこの舟を調査した沖縄美ら島財団の板井英伸さん(60)らによると、舟は日振島で見つかり、同島出身の社会教育家・森岡天涯氏(1879~1934)が市内の伊達図書館に寄贈した。1925(大正14)年や27(昭和2)年の地元紙にこの舟に関する記述があることから、それ以前に流れ着いたとみられる。図書館は戦時中に空襲で焼失したが、舟は高台の神社に移されていて無事だった。宮川さんが、恩師の故三輪田俊助さんからの相談も受け2007年に神社から引き取った。調査の結果、スブネと分かった。

 

文化人類学と民俗学が専門の板井さんによると、これまで奄美大島では6艘(うち1艘は再現)が確認されていたがこの舟で7艘になったといい「(県本土と伊仙町にある3艘を含め)これだけの数の丸木舟がまとまって残る地域は他になく、造船史研究上極めて大きな価値がある」と指摘する。またこの舟は(他の種類の舟・船も含め)琉球弧に現存する最古の舟である可能性が高いという。

 

5年ぶりにスブネに再会したという宮川さんは「久しぶりに彼女に会った気分。ほこりが落ち、きれいに若返った。天涯には『青少年に海外で飛躍してほしい』という思いがあったことも舟と一緒に知ってほしい。奄美への里帰りが一番と思い寄贈した」と語った。

 

原野館長(78)は「コロナ禍も明け、博物館設立60周年に合わせて展示した。天涯や宮川さんの思いを大切に保存していきたい」と話した。

 

企画展は12月23日まで。大人200円(高校生以下無料)。午前9時~午後5時。休館日は火・水。同町の東城小中学校に保管されていた別のスブネも展示されているほか、アジア・オセアニア地域の絵葉書や木彫、太鼓なども。スブネは常設展示予定。