ノロ祭祀の記録伝える 長年立ち会った高橋一郎さん 奄美郷土研究会例会

2025年04月06日

芸能・文化

ノロ祭祀の記録伝える 長年立ち会った高橋一郎さん 奄美郷土研究会例会

奄美郷土研究会(山岡英世会長)の第379回例会が5日、奄美市名瀬の県立奄美図書館であった。名桜大学(沖縄県)が編集刊行を進める「琉球文学大系(全35巻)」の紹介の後、同大系奄美編の執筆者の1人、高橋一郎さん=奄美市名瀬=が「奄美のノロ祭祀(さいし)―1980年代以降の祭祀に立ち会って―」と題して講話。奄美大島と加計呂麻島の集落に通い収めた数百枚の祭事の写真を交えながら、人々の祈りの姿をありのままに伝えた。

 

高橋さんは奄美の民間伝承に興味があり80年代に移住。多くの集落を回り、人間関係を構築しながら祭祀に立ち会わせてもらったという。

 

講話では、ノロ祭祀の役割について▽カミ(神)の送迎儀礼▽(作物の豊作祈願などの)農耕儀礼▽(流行り病などを除くための)防災儀礼―の三つに大きく分かれることを説明。

 

ノロになった人たちには、子を交通事故で亡くした人や、長年祭事をつかさどったが経済的な負担が重く神役を返上した人などさまざまな背景があることを紹介し、「それぞれのライフヒストリー(人生の歴史)を引き受けて、生きて、他者のために祈る人たち」と強調した。

 

写真を交えた各集落の祭祀の紹介では、祭場でミキを飲み、(米をつぶして固めた)シュギを食べ、酒を取り交わす様子や、チヂン(太鼓)をたたいて踊る姿、カミミチ(神道)を通り海で拝む姿などを集落による違いも交えながら伝えた。

 

例会には市民ら約50人が参加。奄美市名瀬の福山あけみさん(63)は父が神役を務めていたと言い、「子どもの頃はそこまで気にしていなかった。生前にもっと話を聞いておけばよかった。奄美には方言なども含め消えていくものが多いので、後世に残してほしい」と話した。

 

琉球文学大系編集刊行委員会の委員長を務める同大波照間永吉教授(74)は「高橋さんの長年にわたる活動の蓄積の大きさと深さが詰まった話で、沖縄と近い事例の紹介もあった。琉球と奄美は深いところでつながっている」と語った。

 

このほか、同大照屋理教授(50)が同大系の概要を紹介した。奄美編は祭祀歌謡をテーマにした上が2031年度に、奄美八月踊り歌・島唄などをテーマにした下が2027年度に刊行予定となっている。