一色次郎作品の再評価期待 沖永良部島で小説家ら座談会

2018年01月20日

芸能・文化

沖永良部島民の集団移住を報告する前利さん(右)。説明に耳を傾ける座談会参加者=15日、知名町

沖永良部島民の集団移住を報告する前利さん(右)。説明に耳を傾ける座談会参加者=15日、知名町

 兵庫県と沖永良部島のつながりを語る座談会が15日、知名町のあしびの郷・ちなリハーサル室であった。幼少期を同県加古川市で過ごした知名町出身の作家、一色次郎(本名・大屋典一)とその作品や、1910年代以降における沖永良部島民の神戸への出稼ぎ移住などをテーマに参加者が意見を交わした。

 

 座談会は、兵庫県在住で詩人の大橋愛由等さん(図書出版まろうど社代表)、小説家の高木敏克さん、哲学者の北岡武司さんの来島に合わせて企画。この3人に知名町教委生涯学習課の前利潔さんが加わった。

 

 一色は知名町余多生まれ。88年、東京で他界した。代表作に沖永良部島を舞台とした「青幻記」や「太陽と鎖」などがある。

 

 座談会の口火を切った大橋さんは「小説など作品を書く文学者、表現者は、単にその土地の出身者、あるいはその土地で書いたというだけでなく、人々の記憶や思いなどその場所に深く刻印する何かがあると思う。奄美大島での島尾敏雄もそうだが、沖永良部島における一色も、その意味で大変興味深い作家」と述べた。

 

 小説家の高木さんは「この島では海を見ていると一瞬海の限りない恐怖に支配されているように感じる」との「青幻記」の冒頭の一節に着目し、「沖永良部島に来て初めて分かったが、海が盛り上がって見えて恐さを感じた。海など自然の根源的な恐怖。幼い頃の原風景からくる恐怖感が生涯心にすみ着いていて一色を小説に駆り立てたのではないか」と論じた。

 

 「青幻記」は映画化されているほか、一色はNHK大河ドラマで話題の西郷隆盛を題材にした歴史小説も書いている。座談会の参加者からは島内での一色作品の再評価を期待する声もあった。

 

 前利さんは沖永良部島民の神戸への移住の歴史について語った。川崎造船所(川崎製鉄)が造船用鋼材自給のため1918年に葺合(ふきあい)工場を創設し、島民の神戸への集団移住はこの頃から本格化したとの持論を紹介。「今年は葺合工場創設から100年の節目。70代以上の島のお年寄りなどは、感慨を覚える人も多いのではないか」と話した。