朝日小が飼育小屋廃止へ 「みんなのウサギ」責任は誰に? 変わる学校飼育(上)
2025年02月03日
子ども・教育

朝日小学校の敷地内に建つ飼育小屋。現在は屋外でのウサギ飼育は行っていない=2024年12月4日、奄美市名瀬
「動物たちの命が教えてくれていることを、私たちはどれだけ生かせているだろう」―。昨年12月4日、奄美市名瀬の朝日小学校で5年生の児童約90人が集まり、学校での動物飼育を考える講演が行われた。講師は奄美いんまや動物病院(龍郷町)の伊藤圭子獣医師。「みんなは今、学校に何匹のウサギがいるか知っている?雄?雌?何歳かな。夏休みや台風の時は誰が世話している?」。真剣なまなざしを向ける児童、思わずうつむく児童。伊藤獣医師は続けた。「朝日小は新しいチャレンジをします。もうこれ以上、ウサギたちを増やさない。学校飼育の在り方を、みんなも考えてみてください」
■誰の〝ウサギ〟?
「死体を触ったことはありますか?」。伊藤獣医師の問い掛けに、子どもたちは戸惑った表情を見せた。「ウサギの寿命は平均で約8年。4カ月で大人になり、子どもを産むようになる。不妊手術をしなければどんどん増える。でも朝日小では増えていない。私が初めて行った時、小屋に骨が落ちていました。誰にも気付かれずに死んでいる。学校のみんなで飼っている、みんなのウサギ。でも〝みんな〟って、誰のことだろう?」
「ウサギは弱い生き物。寒いな、暑いな、もっとおいしいものを食べたいな…感情豊かで心がある。ウサギのこと、どのくらい分かっているかな。動物たちは私たちよりずっと早いスピードで年を取って、衰える」
■片目の「レオ」
同校では屋外の飼育小屋でウサギ飼育を行ってきた。小屋の屋根は半透明のトタン製。夏は強い日差しが降り注ぎ、金網越しに雨風も吹き込む。地面にはウサギが掘った穴が多数あり、深さも分からない。穴にはネズミが入り込み、地面が崩れる危険もある。昨年4月に赴任した野元剛二教諭は小屋を目の当たりにし、飼育の見直しを求めた。伊藤獣医師に相談し、ダニの駆除と雌雄の確認、雄の去勢手術を開始した。
10月、飼育小屋からウサギの「レオ」が姿を消した。レオは他のウサギとのけんかで片目を失っていた。姿が見えなくなって約3週間。児童が小屋の異変を訴えた。「変な臭いがする」―。野元教諭は「レオがつらい姿になっているかもしれない。うじが湧いているかもしれない。それでも確認するか」と飼育委員たちへ問い掛けた。約20人の委員の半数が手を上げ、地面を掘った。だがレオは見つけられなかった。
「先生、レオがいる!」。朝昼夕と小屋に通い、声を掛け続けていた5年生の女子児童がレオを見つけた。真っ白だった体は土にまみれ、やせ細り、体重は元の3分の2にまで減っていた。レオは診察後、室内用のケージに移された。他のウサギ4匹も12月末までにそれぞれ個別のケージに移され、同じ空き教室で穏やかに過ごしている。
■「5つの自由」
飢えや渇き、痛み、病気、恐怖、抑圧のない、本来の行動がとれる「自由」。環境省は、動物が生きていくために要求が満たされ、心地よく安心して安全に暮らしているか確かめる指標に「動物の5つの自由」を掲げ、飼い主の責任を呼び掛けている。
伊藤獣医師は児童たちに語り掛けた。「自然を大切にって言うよね。アマミノクロウサギを守ろう、猫を正しく飼おうって。学校のウサギも一緒。私たちの都合で動物を飼うには責任が必要です。動物の飼い方が良くなっていく中、学校のウサギの飼い方だけがずっと変わらない。何十年も変わらなかったことを変えるのは大きなチャレンジ。だけど飼うことで命の大切さを学ぶなら、室内で飼おう。名前を付けてあげよう」
命は必ず死を迎える。「学校の先生たちは隠さないでほしい」と伊藤獣医師は訴える。「死と向き合うことはとても大切なこと。その時もちゃんとなでて、ありがとうねと伝えて見送ってほしい。それが命を飼うということ」