奄美産の天蚕糸活用へ 大島紬新ブランドも期待 有識者や織元が取り組み
2018年05月27日
地域
天蚕(てんさん)と呼ばれる蚕の繭から取れる糸を大島紬に織り込んで、新たな製品づくりにつなげようという試みが奄美大島で進んでいる。昆虫に詳しい研究者と奄美市の織元が連携した取り組み。関係者は、奄美大島に分布する天蚕の糸は成分などが本土産と異なる可能性があるとみて、新ブランド創出にも期待している。
天蚕は国内に分布するヤママユガの幼虫。体長約10センチで、緑色が鮮やか。採取される天蚕糸(テグス)は織物の原料にも使用され、光沢があってしなやかでしわになりにくいことから「繊維のダイヤモンド」ともいわれる。江戸時代に天蚕飼育が始まった長野県安曇野市では天蚕糸を原料とした和装、洋装品が生産、販売されている。
奄美大島での研究は東京農工大学農学研究院の横山岳准教授など有識者4人による研究グループと、大島紬織元の南修郎さん(奄美市名瀬)、奄美昆虫同好会事務局長で奄美市立小宿小学校教諭の鮫島真一さんが連携。一般財団法人大日本養蚕会の助成を受け、2017年度にスタートした。
初年度は、研究グループのメンバーで福島県農業研究センターの三田村敏正博士らが来島し、山中で雌雄合わせて100匹近いヤママユガを採捕した。本土産のヤママユガや天蚕はクヌギなどの落葉樹を食用樹としているのに対し、奄美大島産はアマミアラカシやオキナワウラジロガシなどの常緑樹が食用樹という。
鮫島さんらは採補した成虫から約800個の卵を採り、奄美市名瀬に設けた飼育場で育成。ふ化した天蚕からこのほど、初めて繭を採取した。夏ごろにかけて天蚕糸を採取し、分析も行う。島内で成虫や天蚕の飼育場を整備しながら、5年後をめどに奄美産の天蚕糸による大島紬生産を目指す。
三田村博士は「奄美大島に分布する天蚕は本土産と体の模様や遺伝的な部分でも違いがあり、亜種の可能性がある。糸にも何らかの特長がみられるのではないか」と語った。
数年前から養蚕に取り組んでいる南さんは「大島紬に関する文献には、昔は天蚕糸を用いて紬生産が行われたことが記されている。奄美産天蚕糸の紬生産は、ブランド創出と大島紬の歴史検証の面で意義のある試み」と話した。