今年の主役はワンど!! リュウキュウイノシシ 愛すべき厄介者

2019年01月01日

地域

みかんをほお張り満足そうな表情を浮かべるコジロー=2018年11月中旬、瀬戸内町

みかんをほお張り満足そうな表情を浮かべるコジロー=2018年11月中旬、瀬戸内町

 今年の干支は亥(イノシシ)―。奄美群島に生息するリュウキュウイノシシは、約7万年前に大陸から渡ってきた遺存種(生きた化石)と推定され、群島生物史の言葉なき伝承者といえる。その一方、イノシシは農地に侵入し作物を食い荒らす、農家にとっては厄介者だ。そんな中、奄美大島のとある集落には、地域の愛に育まれた1頭のイノシシがいる。「愛すべき厄介者」。そんな今年の主役に会いに行った。

 

◆集落の人気猪 コジローくん

 

 瀬戸内町は大島海峡の湾奥、のどかな集落の山裾にある小屋で、1頭のイノシシが暮らしている。名前はコジロー(推定6歳の雄)。計照也さん(64)ますみさん(56)夫婦がペットとして飼育している。「イノシシの魅力? なんだろうねぇ」。そう話すますみさんはコジローにまなざしを向けたまま、さまざまな出来事を振り返った。

 

 昨年11月中旬、記者が小屋を訪ねると、コジローは毛を逆立てて口に泡をため、のぞき込むようにこちらを見詰めていた。「戦闘態勢だね」とますみさん。知らない人には、こうして威嚇する。遠くにいても足音や匂いで反応するらしい。

 

 ますみさんが餌のみかんを見せると、態度は一変。コジローは前脚を曲げてひざを着き、伏せたような姿勢に。小屋の掃除をしようとホースで水をまけば、コジローは口で水を追い掛ける。いかつい風貌に似合わぬ、無邪気な一面をのぞかせた。

 

 ますみさんとコジローの出会いは6年前。もともと動物好きなますみさんは、近所で飼われていたうり坊に恋焦がれていた。周囲にも「うり坊を飼いたい」と話し、知り合いの猟師が偶然捕まえたうり坊を譲り受けた。

 

 小さいうちは小型犬と一緒に家の中で飼っていた。照也さんは当初「いつかは食べようか」と少し思っていたらしいが、お腹の上で眠る姿に心を奪われ、今でもかわいがっているという。

 

 成長すると屋内では飼えず、庭先のケージでも手狭に。現在は知人からもらった大型犬用の小屋で飼っている。

 2歳ごろから動きが活発になり、2度小屋の壁を破壊。1度脱走したが、2時間もしないうちに小屋に帰ってきたという。「排せつも決まった場所でするし、意外と賢いよ」とますみさんも感心。「頭にタイヤを乗せて眠るのは理解できないけど」と笑った。

 

 基本的に何でも食べるが、海や川のもの(魚介、海草など)とキノコ類はきれいに残す。計家の残飯が主食だが、足りないときは敷地内にあるみかんやサトウキビなどをあげている。

 

 集落の人たちも、食べ切れなかった弁当や売り物にならない農作物を「コジローにあげて」と置いていき、豊年祭など集落行事で余った食材も残しておいてくれる。集落の愛でコジローは幸せ太り気味。100㌔以上はありそうだ。

 

 ますみさんは瀬戸内町阿木名出身。古仁屋高校を卒業後、兵庫県の尼崎市でペットの理容関係の仕事に従事し、7年前に帰島した。尼崎にいた頃、通勤電車から野生のイノシシを見掛けることはあったが、「まさか飼うことになるとは思わなかった」と振り返る。

 

 阿木名にいた頃、生きたイノシシを見る機会は少なかったが、シシ肉は食べていた。今はコジローと同じ匂いのシシ肉が食べられないという。たまに知り合いから冗談で「コジローは食べないの?」と言われるが「とんでもない」。コジローは計家の一員だ。

 

 「コジ」「ブー」「食べる?」「ブー」―。ますみさんの声にコジローが応えるやりとりは、まるで人間の親子のよう。黙々と食べる姿にますみさんも目を細めた。

 

 亥年なので「猪突猛進」といきたいところだが、コジローはのんびり派。その愛嬌で集落に幸せをもたらすかもしれない。

飼い始めた当初、うり坊だった頃のコジロー。後ろは一緒に飼っていた小型犬(2013年、提供写真)

飼い始めた当初、うり坊だった頃のコジロー。後ろは一緒に飼っていた小型犬(2013年、提供写真)