奄美群島国立公園誕生から5年㊦ 奄美博物館・高梨修館長に聞く 独自の「環境文化」活用を

2022年03月08日

地域

 奄美群島国立公園は、自然と密接に関わる暮らしが育んだ文化を継承する「環境文化型」という従来にない管理方針が打ち出された。奄美特有の環境文化をどう守り、生かすのか。奄美市立奄美博物館の高梨修館長に聞いた。

 

│「環境文化型」の国立公園をどう見る。

 

「日本の国立公園で初めて環境文化型という概念が登場した。国立公園は法的に自然を守る制度。『生態系管理型』は絶滅危惧種や固有種を保護する自然公園の本質の部分。そこに人と自然の関わりという視点が入ってきたのは画期的だ」

 

「世界自然遺産に登録された奄美大島、徳之島では、貴重な自然が人の生活のすぐそばにあり、島の人たちは自然を壊さないように暮らす知恵を持っていた。伝統的な暮らしを守り続けていくことができれば、自然は今までのように残されていく。そういうことも含めて環境文化型の国立公園ができたと考えている」

 

│高梨館長が考える奄美の環境文化とは。

 

「奄美博物館は2019年に環境文化を軸に全館リニューアルした。現場に行くと、まだあるだろうと思っていた行事が随分前になくなっていたり、博物館が集積した写真や資料、情報が過去のものになっている状況に直面して、非常に危機感を持った」

 

「一方で、地域で暮らす人たちの生活がなくなるわけではない。環境文化は伝統的な文化に限定せず、もっと幅広く人の暮らしの総体だと理解しないといけない。奄美と沖縄は同じような自然環境なのに、歩んできた歴史が違うから文化が異なる。奄美の環境文化の独自性を理解するには、自然と人の営みだけではなく、どういう歴史を歩んできたかをよく知る必要がある」

 

│奄美博物館の展示はどう変わった。

 

「環境文化は奄美群島の歴史と自然、双方との関わりがあって出来上がった文化。歴史の流れの中で起きたことや、地形などの特徴と人の暮らしの関わり、きめ細かな季節の移り変わりの中で、島の人が自然の恩恵を受けてきたこと。歴史的、自然的環境を分解して説明している。博物館全体を見てもらうと、奄美の環境文化の輪郭が浮かび上がる形の展示になっている」

 

│環境文化をどう生かす。

 

「伝統文化にとどまらず、その土地の自然や、歴史環境の中で育まれたものはたくさんある。例えばタンカンやスモモは、自然に適した気候と、導入を図った歴史がある。環境文化はそこに付加価値を与え、奄美の産業をブランディングしていく武器になる」

 

「観光振興を図る上では、沖縄との差異化につながる大事な部分。環境文化型国立公園は奄美群島だけ。活用していくことが島々の個性を際立たせ、群島の一体感を醸成していくと期待している」

 

│住民自身がこれからの環境文化の担い手になる。

 

「日本復帰後、奄美群島は自立発展を目指してやってきた。これからは『自律』へと変わっていく。インフラ整備も必要だけど、奄美とはいかなるところなのか、群島の子どもたちが学んで、理解することが大事だ」

 

「各学校の自主性に任せた郷土教育の充実でなく、世界自然遺産と環境文化型の国立公園を踏まえた教育プログラムが必要。島々の皆さんが自ら学ぶことが、将来の自律発展を見据えたときに必要だ」

(聞き手・山崎みどり)