技術で島に貢献、奄美支店開設  躍進 チリメーサー―トマス技研の特許戦略㊦

2018年04月20日

地域

チリメーサーと島への思いを語る福富社長=13日、沖縄・うるま市

チリメーサーと島への思いを語る福富社長=13日、沖縄・うるま市

 「チリメーサーが海外に行くなんて、入社当時は想像もつかなかった」。喜久山朝美さん(24)が入社した2014年、トマス技術研究所は社長と専務の2人だけだった。一般事務で採用されたが、モノづくりに懸ける社長の熱意に影響を受け、焼却炉に関するあらゆる技術を見て学んだ。今では従業員も14人に増え、喜久山さんは技術設計課の有望株。チリメーサーの設計に携わり、特許出願の際は要となる明細書を含めほぼすべての書類をチェックする。

 

 福富健仁社長(52)は「出願では普通なら弁理士を使うが、僕らは自分たちでやる。誰にもまねできない『強い特許』を取るには、中身を知り尽くした技術者が明細書を書かないといけない」と話し、喜久山さんの働きぶりを高く評価した。

 

 福富社長は奄美市名瀬出身。沖縄で進学し、機械工学を専攻した。環境に良いモノづくりを目指し、廃棄物処理プラントメーカーに就職。野焼きや不法投棄、漂着ごみなど、離島ならではのごみ問題に直面し、ひらめいたのが無煙の小型焼却炉だった。開発を機に独立。04年、沖縄の産業まつり・発明くふう展でチリメーサーが沖縄県知事賞(最優秀賞)を獲得した。以来、受注が相次ぎ、チリメーサーの導入実績は県内外で70件を超える。

 

 16年には国際協力機構(JICA)の政府開発援助(ODA)事業で採択され、無分別のごみの山に苦しむインドネシア・バリ島に試験導入した。バリ島での取り組みは外務省の17年版「開発白書」で紹介され、反響を呼んだ。アフリカ・セネガルの大使館からも引き合いが来たという。

 

 故郷奄美では今年2月、大量の油状物が漂着し問題となった。地元の先輩から「何とかできないか」と連絡を受け、すぐにチリメーサーの無償貸与に動いた。15年前に製作した初代チリメーサーが島の1号機となった。技術で島に貢献したいという思いが形になり始める。

 

 今年1月には奄美支店を開設した。世界自然遺産登録を視野に、会社初の観光事業部を設置。かねてより構想にあったチリメーサーの技術を核とした「三つのK」を実践する。環境、観光、経営の融合だ。環境とリンクした観光振興と島の企業の経営支援に取り組む。沖縄で培ったノウハウを惜しみなく投入するつもりだ。

 

 かつては離島の出身であることに劣等感を抱いていたという福富社長。だが今では、島での経験がチリメーサーのすべてに生かされていると感じる。

 

 「島に生まれていなければこの技術はなかった。島の人間でも夢を持って頑張れば、これだけいいものを作って世に貢献できるということを示したい」と思いは熱い。会社は今年、創立15周年の節目。今後は、モノづくりを支える「人づくり」にも力を入れる。奄美・沖縄の未来を担う新たな挑戦が始まっている。