現場で多発か、労働者の熱中症 死亡例も、労働局が予防「緊急要請」

2022年07月31日

地域

真夏日が続く奄美群島。炎天下での労働は熱中症を引き起こし、時には生命の危険さえ伴う。県内では今月、工事現場で熱中症が原因で死亡する労働災害が発生。鹿児島労働局は県内事業主に予防対策を徹底するよう緊急要請を出した。日中、屋外で作業に当たらざるを得ない労働者はどのようにして予防すればいいのか。奄美市の工事現場を訪ねた。(柿美奈)

 

◆ペットボトル3本

 

「ほら、この人なんかは『3丁拳銃』よ」。指をさされた先には、飲料ペットボトルを両足ポケット、さらには腰ベルトから計3本ぶら下げた工事現場の誘導員が立っていた。

 

奄美市名瀬小浜町の道路舗装工事現場。村上建設の取締役工事部長の増伸人さん(55)が案内してくれた。この日は曇天。環境省が出す気温や湿度も加味した「暑さ指数」は26・7の「警戒(積極的に休憩)」レベルだった。

 

鹿児島県によると、奄美群島の熱中症の疑いによる救急搬送状況は、大島地区消防組合35件、徳之島地区消防組合32件、沖永良部与論広域事務組合14件の計81件(6月1日~7月29日現在)。昨年度の6月1日~9月末までの84件に、7月時点ですでに迫る勢いだ。

 

全国でも今年6月に熱中症で救急搬送された人は同月の過去最多に上り(総務省消防庁発表)、県内でも同月過去最多を記録している。

空調ウェアと、冷感インナーキャップを着用し、工事に当たる村上建設の作業員=18日、奄美市名瀬

◆会社がウェアを支給

 

村上建設では、扇風機のついた空調ウェアを現場作業員全員に支給。現場には巨大なクーラーボックスを設置し、作業員数の倍のペットボトル経口補水液を冷やす。ボックス内の氷は飲料を冷やすだけでなく、日中作業員の首元などを冷やす氷のうにも使われる。さらに15㍑の水筒を二つ設置し、飲料水を入れる。飲料と同時に干し梅や塩分、クエン酸を含んだあめ玉も提供していた。

 

作業員は衣類にも工夫。ヘルメットの下には、首の後ろを日光から守る日よけのついたインナーキャップを着用。水分を含むと冷たくなる素材のため、汗をかいても暑くなるのを防いでくれるという。

 

会社が支給するのはそれだけではない。熱中症を防ぐのに重要な、朝食用のおにぎりを毎朝出勤時に無料で提供。「若い人たちは夜酒飲んでも朝は飯を食べてこない。判断力が鈍ったり、精神的にイライラしてミスにつながりがち。弁当を試したこともあったが、手軽に食べられるおにぎりに落ち着いた」と増さん。その効果か、現場で大きなトラブルは発生していないという。

作業現場に設置されている大量の経口補水液とあめ玉など=同

◆社員は我慢しがち

 

現場では何も言わない作業員の体調に何より気を配る。増さんは「作業員はきつい、暑い、と言わない。よっぽどきつくなってようやく自己申告してくる。どうしても我慢してしまう」と話す。そうなる前に確認しておくため、村上建設では作業前と作業中、作業後の1日3回、体調チェックシートを記入させている。「中には帰宅後に熱中症に気付く人もいる。一日の中でどの段階で体調が悪くなっていたのか確認するためにも重要」という。

 

名瀬労働基準監督署によると、事業主が労基署への熱中症の報告義務があるのは、労働者が4日以上の休業となったケースや、1~3日休業となった場合。一日で症状が治まる軽度の熱中症は「不休災害」として届け出の義務はないため、実際の労働現場では多数の熱中症が発生していると同署は推測する。

 

同署は「熱中症対策のためには、管理者と労働者がそれぞれ知識を持つことが大切。重症化する前に、どのような対応を取るか普段から話し合い、予防のための取り組みを進めてほしい」と呼び掛けている。