回復へ科学的資源管理を 漁獲減少続くマガキガイ 報告義務化、小型採捕禁止を提言
2024年11月30日
社会・経済
奄美各地でトビンニャやテラダなどと呼ばれて親しまれているマガキガイ。近年漁獲量が減少傾向にあり、群島内の一部漁協では禁漁や禁漁区を設けるなど対策してきたが、漁獲量回復には至っていない。マガキガイの生態に関する知見がなかった奄美群島では2022年から研究が始まっており、研究者は「科学的情報を取り入れた資源管理を」と警鐘を鳴らす。
■マガキガイの生態
マガキガイに関する専門家の研究報告は22日、奄美市名瀬で開かれた奄美群島漁業振興大会(奄美群島水産振興協議会主催)で行われ、鹿児島大学国際島嶼(とうしょ)教育研究センター奄美分室の河合渓教授と鹿児島大学水産学部の鳥居享司准教授が、奄美海域におけるマガキガイの生態と漁業実態、資源管理などをテーマに発表した。
河合教授はマガキガイの生態について▽出荷サイズの殻長45ミリに成長するまで2~3年▽十分に成長した個体は殻下部に「ストロンボイドノッチ」(湾入)と呼ばれるくぼみを形成▽推定の繁殖期は12~5月か1~4月▽水温変化や水質悪化で砂に潜る―などの特徴を説明する。
■漁業実態と管理の現状
奄美での主な漁期は12~4月。研究結果から判明した推定の繁殖期と重なる。13年から過去10年間の奄美大島4漁協のマガキガイ漁獲実績は17~19年を境に減少傾向で、特に漁期後半は小型個体が中心だ。その一方で価格は観光客増加に伴う需要増もあってか、10年間で2~3倍に高騰している。
漁獲量低迷を受け、群島内の漁業も独自に資源管理している。19年ごろから漁獲が激減している与論町漁協は21年7月から禁漁の措置を継続。宇検村漁協は10年代に禁漁区を設けた。瀬戸内漁協では業者会を組織し、採捕者を約30人に制限。22年からは正確な漁獲データを得るため、業者会に対して漁協への全量出荷を求めている。
鳥居准教授は奄美群島で正確な漁獲データがない現状について、「正確なデータなしに、資源管理や対策の効果検証はできない」と指摘。現時点でできる漁業者の取り組みとして、漁獲データ報告の義務化や小型個体の採捕禁止を挙げる。
■資源管理の提言
河合教授は奄美群島の漁業実態や流通の現状を踏まえ「漁の規制があまりない中、需要増、資源・漁獲量の低下、価格の高騰を引き起こしている」と強調。特定の卵と精子を用いることで、生産個体の遺伝的多様性が低くなる可能性がある種苗生産に否定的な考えを示し、資源管理策として▽漁獲サイズ▽禁漁区の設置▽禁漁期、漁獲上限の設定―などを挙げ「消費者を含め幅広い人に資源減の現状を知ってもらうことが重要。今のうちに対策を検討すれば、持続的資源利用は可能」と訴えた。
鳥居准教授は操業期間の短縮や漁獲量制限、研究機関と連携した漁期の調整などの資源管理に取り組む北海道厚岸(あっけし)町のアサリ漁業の事例を紹介。マガキガイの研究が進み、科学的知見が判明した将来的な管理案として▽殻長45~50ミリ以下の個体採捕禁止▽禁漁期の導入検討―を示し、「漁業権対象魚種のマガキガイは、漁協による適切な管理が必須。群島全体で統一したルール設定を」と呼び掛けた。
資源管理に関する専門家の提言を受け、奄水協の茂野拓真会長は「瀬戸内漁協でも行っている自主的な資源管理の取り組みを、全郡的に広げていくことが重要。研究機関と協力して得られた科学的知見を基に、各漁協の意見集約しながら統一的なルールを決定する必要がある」と述べた。