「人ごとじゃない」 奄美でも安全確認再徹底へ

2022年09月10日

社会・経済 

通園バスが幼稚園に到着し、園児を降ろした後の車内を確認する添乗員=9日、奄美市

静岡県牧之原市の認定こども園で5日、女児が通園バスに取り残されて死亡した事件を受け、全国的に再発防止へ向けた意識が高まっている。昨年7月にも福岡県で同種の死亡事件が発生しており、厚生労働省は安全対策の見直しを求める通知を再度発出。園児が犠牲になる事件の再発に、奄美の幼稚園関係者からは悲しみとともに「人ごとじゃない」など内省する声も聞かれた。通園時の安全確認再徹底に取り組む奄美の現場を取材した。

 

■事故再発で国「再周知」

 

静岡県で5日に発生した事件で死亡した女児(3)は、バスで登園した午前8時50分ごろに下車せず、車内で意識を失っている状態で見つかった。死因は熱中症で、高温の車内に約5時間も置き去りにされたとみられている。

 

園は2日後に記者会見を開き、陳謝した上で事件当日の経緯を説明。園に到着したバス車内を2人以上で確認しなかったなど運行上の不備に加え、クラス担任が女児の不在を把握しながら保護者に連絡しなかったことなどを認めた。

 

同様の事件は昨年7月に福岡県中間市でも発生。保育園の送迎バスに置き去りにされた男児=当時(5)=が死亡した。静岡県での事件発生を受け、厚労省は今月6日、各都道府県や自治体を通じて関係施設に対策を「再周知」。園児の出欠情報共有や送迎バス車内での確認作業徹底などを求めた。

 

2年連続での事件発生は、奄美の各園職員や園児の保護者らにも大きなショックを与えた。

 

4歳の娘が奄美市内の幼稚園に通う30代母親は「ニュースを見るたび、悲しくて悔しくて涙があふれる。子どもが生きて家に帰って来ることは大前提であってほしい」と声を落とした。

 

■関係者「リスクは常に」

 

人口が集中する奄美市内では、複数の幼稚園が通園バスを運行している。1つの例として、100人余りの園児を預かるある園を取材した。

 

9日午前、園の正門前にバスが到着した。乗っているのは運転手、添乗員と十数人の園児たち。出迎えの園職員3人がバスの乗降口周辺に立ち、園児を1人ずつ降ろした。添乗員が車内を見回った上で降りた後、バスは裏門から園庭脇の車庫に駐車した。

 

運転手、添乗員ともに専従でバス運行時のみの出勤。日中、車庫では併設する作業場に用務員が常駐し、バス車内の様子は常に確認できる。数年前まで添乗員は各クラス担任らが兼務していたが、園内での主要業務に集中できるよう専属の添乗員を雇い、それぞれの役割を明確にした。

 

「職員一人一人の兼務が増えると、リスクを見落としやすくなる」と園長。通園バスの乗降情報などは「チェックノート」で共有している。

 

やむを得ず添乗員が不在の場合を想定した園内研修も行い、全職員が添乗業務を担える体制は整えている。ただ運転手は代わりの確保が難しく、不在時は各家庭に送迎をお願いしている。

 

事前連絡のない欠席についても各クラス、事務室で情報共有し、家庭側に確認するよう徹底している。それでも園長は「(園児が絡む事件は)人ごとじゃない。最終的に人の目で確認する限り、リスクは常につきまとう。そのことを意識して、より安全な体制・環境づくりに努めるしかない」と気を引き締めた。

 

通園バスの園児置き去り事件では園側の思い込みや怠りが原因として浮き彫りになった。「命を預かる」責務の確実な遂行が求められている。