足りない人手、合わない条件 「働きやすさ」に企業苦心 求人過去最高水準

2023年03月07日

社会・経済 

合同企業説明会「あまみJOBフェア」で求職者に業務や待遇を説明する企業の担当者=2月24日、奄美市名瀬

さまざまな分野で企業の人手不足が続いている。名瀬公共職業安定所管内の有効求人倍率は過去最高水準で推移し、求職者側に有利な売り手市場。企業側が条件を緩和して積極採用に動く中、求職者側は勤務時間など労働環境をより重視する傾向を強めており、関係者は「働き方に関する求職、求人条件のミスマッチ(不一致)が深刻だ」と分析する。就職先を選ぶ上で、採用後の〝働きやすさ〟が重要性を増している。(西谷卓巳)

 

■企業説明会開き強みPR

 

「勤務時間帯は…」「給与や手当は…」「必要な資格は」―。先月、奄美大島での雇用促進を目的とした合同企業説明会「あまみJOBフェア」が奄美市内であった。企業18社と求職者約20人が情報交換し、互いの求職・求人条件を突き合わせた。

 

参加業種は宿泊や金融、福祉、建設、IT(情報技術)関連などさまざま。業務内容や労働環境を示し自社の強みなどをPRした。求職者側は中高年の姿が目立ち、本土で離職したU・Iターン者もいた。会場には就職・転職や移住全般に関する相談ブースもあり、数人が立ち寄った。

 

高齢の母を介護するため昨年帰島した50代女性(同市名瀬)は「フルタイムで働きたいが、介護しながらは難しい」と苦笑い。「短時間勤務を希望する以上、給与面のぜいたくは言えない。今は母との時間を大切にしたい」と前を向き、各ブースを巡っていた。

 

■求人倍率は過去最高水準

 

名瀬職安管内の有効求人倍率は昨年12月、統計が残る1992年以来最高の1・42倍を記録した。有効求人数1971人に対し、有効求職者数は1384人。新型コロナウイルスの影響縮小に伴う経済活動の回復傾向を背景に、サービス業や卸売・小売業などの求人数が伸びている。

 

ただ「求職者側の選び放題」とも言い切れない。同フェアに立ち会った名瀬職安の担当者は企業側、求職者側双方が示す労働条件のミスマッチを指摘。働き方改革が叫ばれる昨今「平日午前9時~午後5時勤務」など求職者の限定的な希望が固く、合致する求人が見つかりにくいという。

 

「子育て、介護中の求職者は融通が利きやすい労働条件を重視する」と同担当者。一方で「豊富な経験が生かせる」という理由もあり、定年退職後を想定した60歳以上対象の「シニア応援求人」が増えているという。高齢者雇用安定法も企業に70代まで働ける環境整備を求めている。

 

■進む未経験者採用、育成

 

「介護現場では体調記録や入浴援助を担う専用機材が導入され、従業員の負担が減っている」。同フェアの冒頭、求職者への各社説明で福祉事業所の担当者が力を込めた。介護人材不足は慢性的な課題。有資格者に限らず資格取得を目指す求職者も念頭に、間口の広い採用に力を注ぐ。

 

専門性の高い技術職についても、未経験者を採用し育成する姿勢が強まっている。奄美市内に主要事業所を置くIT企業は「人手が足りず仕事を請け負い切れない状況。経験者採用は理想的だが難しい。今後は高卒採用・社員研修を強化する方針」とした。

 

年齢や経験を問わない―。人材確保へ応募要件を緩和する企業側の動きにより就職しやすくなりつつある中、求職者側から聞かれるのは「自分(の生活)に合った働き方をしたい」といった声。企業側には、より求職者個々の事情に合わせやすい労働条件整備が求められている。