球児の夢、島で結実④ 後輩へ託す思い

2022年02月13日

スポーツ

大島高校野球部の練習でノックを行う外部コーチの泊さん(左)=1月30日、奄美市の名瀬運動公園市民球場

「臆さず、諦めず、楽しんで」。大島高校野球部で外部コーチを務める泊慶悟さん(25)は、8年前に同部がセンバツ初出場を果たした当時の副主将。「不完全燃焼だった」という自身の経験を振り返り、「自分のために野球をしてほしい」と後輩を激励する。

 

■苦い記憶

 

2014年1月24日午後、奄美市の空に花火が上がった。この日、3月開幕のセンバツ出場校を決める選考委員会が大阪市であり、大島高には報道陣が殺到。当時、教室で授業中の泊さんは察した。「決まった。甲子園に行ける」

 

大きな期待と不安を抱えながら迎えたセンバツ本番。甲子園球場は「大きかった」。速い試合展開に対応できず、緊張のせいか攻守ともにおぼつかない。大敗を喫した結果以前に「自分の野球ができなかった」。

 

大学では野球から遠ざかっていたが、3年時の教育実習で久しぶりに母校・大島高を訪れ、ひたむきに練習する後輩球児の姿に心を打たれた。「野球をやめて視野を広げてみたが、やっぱり野球が好きだった」

 

■選手と指導陣つなぐ

 

20年1月ごろ、奄美市役所への就職が決まった。大島高野球部の塗木哲哉監督に帰島を伝えると、「ユニホームを着て(練習に)来ないか」と誘われた。「奄美のため、後輩のために全力を尽くしたい」と、指導する覚悟を決めた。

 

外部コーチに就いた同年はコロナ禍1年目。試合機会に恵まれなかったものの「野球を理解し、力のある選手たちだった」。無駄も隙も少なく、自ら考えてプレーする後輩たちの姿から、塗木監督の目指す「シンプルな戦術」も見えてきた。

 

「自分は選手と指導陣のつなぎ役」。特に意識してきたのは、年齢の近い選手たちとの対話。監督やコーチの意図が伝わっているかを確認しつつ、選手一人一人の状態にも気を配った。

 

■歴代部員の思い

 

昨秋の県大会制覇、九州大会準優勝を経てセンバツ出場を決めた現チームについて、泊さんは躍進の要因は「格上相手にも勝算を立て、好機を逃さなかったこと」と分析する。

 

特に九州大会準々決勝の興南(沖縄)戦は「弱者の勝ち方が凝縮されていた」。意表をつく打撃で相手守備を翻弄(ほんろう)し、守りでは野手配置を細かく調整して長打を許さなかった。

 

2失点以内、7得点以上で甲子園ベスト8―。「今の大島高は目標もその道筋も明確に描けている。きっと『島でやってきた野球が全国で通用する』と証明できる。センバツを経験した身としても、しっかりサポートしていきたい」と泊さんは力を込める。

 

「先日のセンバツ出場決定は現チームに限らず、歴代部員の思い実った瞬間でもあった。甲子園での1戦、1勝は最大の恩返し。選手たちは後悔しないよう、勝敗だけでなく『何を大切にしたいか』を意識し、全力で躍動してほしい」

(おわり)

(この連載は且慎也、西谷卓巳、宅間美咲が担当しました)