「家庭養護」を実践 群島唯一のファミリーホーム 愛情注ぎ、成長見守る

2022年10月18日

地域

青堀さん夫婦(手前)が今年6月に開設した、ファミリーホーム「ガリラヤの風」=9月28日、奄美市名瀬

厚生労働省は、虐待などさまざまな理由により社会的養護を必要とする子どもたちを家庭の中で育てる、小規模住居型児童養育事業「ファミリーホーム」の普及を進めている。奄美でも今年6月、青堀律雄さん(72)、千賀子さん(71)夫妻が、群島唯一となるファミリーホーム「ガリラヤの風」を奄美市名瀬浦上町に開設。少人数の子どもたちを家族や地域で見守る「家庭養護」を実践している。

 

■家庭養護の推進

ファミリーホームは2008年の児童福祉法改正以降、家庭養護や親子関係の再構築支援などの充実を目的に、里親制度と並ぶ制度として全国的に実施。11年に厚労省がまとめた「社会的養護の課題と将来像」では、社会的養護の大部分を占める乳児院や児童養護施設に対し、里親やファミリーホームの割合を全体の3割ほどに増やすことを目標としている。

 

ファミリーホームでは児童相談所が委託する0~18歳までの子どもたちを養育。定員は4~6人で、養育者2人と補助者1人以上を置くことが定められている。養育者は委託児童の養育経験や児童養護施設での勤務経験がある人などで、都道府県から認可を受ける必要がある。

 

■経験生かし支援継続

青堀律雄さんは1980年から37年間、同市名瀬の児童養護施設「白百合の寮」で勤務。社会的養護を必要とする子どもたちと長年向き合ってきた経験を生かし、定年退職後も子どもたちの支援を続けようとファミリーホームの開設を決意した。

 

自宅近くの民家を借りて新設したファミリーホームは、県が毎月支給する措置費と寄付金などを活用して運営する。千賀子さんと娘夫婦らが協力し、少人数の委託児童を複数の大人が見守る環境を整備。定員は6人で現在、律雄さんが里親制度を活用して2年前から養育している男子高校生1人が入居している。

 

「子どもの個性に合わせた支援・指導が必要。家族や児相の担当者などと連携し、チームワークで成長を見守っている」と律雄さん。「たくさん愛情を注げるのが家庭養護のメリット。最近は『ただいま』『行ってきます』の声が聞けるようになった。互いに心を開いて信頼関係ができている」と手応えを語った。

 

このほか、委託児童の保護者とも定期的に面談を重ね、健全な家庭復帰を目指す取り組みも実施。律雄さんは「子どもが傷つかない形で家族の元に帰すことが理想。社会に出てからスムーズに生活を送れるよう、恒久的な支援も大事」とアフターケアにも力を入れたい考えだ。

 

■現状と課題

大島児童相談所によると、管轄する奄美群島内のファミリーホームは「ガリラヤの風」のみで、県から認定を受けた里親は30世帯。社会的養護を必要とする子どものファミリーホーム・里親への委託率は県全体で18・1%にとどまり、国が目標とする3割には届いていない。

 

大島児相の担当者は「鹿児島県は全国的にも(家庭養護)の実施率が低い。子どもを預ける際、児童養護施設を希望する保護者が多く、里親制度などへの理解を得ることが難しい」と課題を挙げた。大島児相は関係機関や保護者、養育者を対象に説明会を実施するなど、家庭養護の普及啓発を図っている。

 

律雄さんは「支援を必要とする子どもたちはたくさんいる。委託児童と長期間の関わりを持てる人(養育者)が増えてくれれば」と期待。今後は里親同士が情報共有できるサロンの実施も計画しているという。家庭養護の充実を目指し「埋もれている子どもたちの声にしっかり耳を傾けていきたい」と力を込めた。