奄美大島いきものがたり

2024年01月25日

クロウサギの親子そっと見守って

アマミノクロウサギの幼獣

抜群の知名度を誇るアマミノクロウサギ。奄美大島と徳之島だけに生息する奄美群島の固有種であるが、実は沖縄島の読谷村からたった1例だけ化石が発見されている。かつては沖縄島にも分布していたのかを議論するのは難しいが、非常に貴重な記録である。

12月頃から春頃にかけては、灰色みを帯びた柔らかくて黒い毛におおわれた幼獣を観察する頻度が高くなる。私たちが発見してもなかなか逃げず、というよりはライトに照らされたことに驚いているのか、身動きがとれなくなってその場でじっとすることがよくある。かわいらしい姿を見れば、少しでも近づいて観察・撮影したいという気持ちが芽生えてしまうだろうが、距離をとってそっと見守ってほしい。

幼獣は親ウサギと活動を共にしていることがあれば、単独で見られることもある。ただ、ほとんどの場合は近くにいる親ウサギの「ピシーッ」という甲高い鳴き声によって、親が待っている森の中へと入っていく。近年、アマミノクロウサギの生息域が広がってきており、数年前までは考えられなかったような場所でも、目撃されるようになってきた。夜間の運転には注意が必要だ。

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○漂流先に定着 ワニグチモダマ

ワニグチモダマの花

モダマと聞けば、長さ1・5㍍ほどにもなるさや(豆果)を思い浮かべる人が多いだろう。今年もたくさんの実をつけている。

奄美大島にはモダマと同じマメ科に属するワニグチモダマも生育している。つる性で、海岸沿いの樹木などに巻きつくようにして生えている。個体数が少なく、島内でも生育場所は限られている。

花は12月頃から咲き始めるものが多いのだが、かなりばらつきがある。今頃(1月下旬)から開花し始めるものや、6月頃に満開になることもあるのだ。花はモダマのようなブラシ状ではなく、イルカンダと似た形で黄緑色。蜜にはたくさんのアリが集まってくる。

ワニグチモダマは海流によって運ばれた種子が、漂流先に定着することができれば、分布域を広げていくという、いわば海流分散である。これまで奄美大島に生えているワニグチモダマが結実している様子を見た人は、私が知る限りいない。時々、海岸に流れ着いた種子を見かける。島内に生育しているのは、海岸に漂着した種子が発芽したものだろう。このことが島での生育地が限定的である理由ともいえるのではないだろうか。

(平城達哉・奄美博物館学芸員)