標本が語るクロウサギ 国立科学博物館の川田さん講演 奄美博物館

2023年03月06日

クロウサギの標本から広がる研究の可能性などについて講演した川田さん(円内)=4日、奄美市名瀬

数多くのアマミノクロウサギを剥製などの標本にしてきた国立科学博物館の川田伸一郎さん(50)を招いた講演会が4日、奄美市名瀬の奄美博物館であった。川田さんは、奄美大島と徳之島でロードキル(交通事故死)の多発に伴い、近年、クロウサギの標本が増え続けていると説明。世界的に特異なクロウサギ研究の進展に期待しつつも、事故防止へ安全運転を呼び掛けた。

 

川田さんは「モグラ博士」として知られる動物学者。国立科学博物館の動物研究部で陸の哺乳類を担当し、さまざまな動物の剥製や骨格などの標本収集に力を入れている。講演会は同日に始まった奄美博物館の「ウサギ展」に合わせて開かれ、約60人が聴講した。

 

講演では、クロウサギの発見や研究に関わった人物として、奄美大島で1896年に標本を採集し、学名の由来となったファーネスや、歯の数や骨格の特徴が他のウサギの仲間と異なることを調べて新たな属名を付けたライアンらの足跡を紹介。

 

近年の研究でもどのように進化したのかよく分かっておらず、川田さんは「他のウサギとかけ離れた、世界的に貴重なウサギ。黒いウサギは非常に珍しい。奄美大島と徳之島に生き残っているのは本当に貴重」と強調した。

 

国内外で所蔵されていたクロウサギの標本は少なく、「世界中の標本を集めても100点もない」と説明。一方、国立科学博物館へ提供される死骸は2012年ごろから急激に増え、現在の標本は800点を超えるという。

 

標本が増えることで、成長に伴う変化が分かることや、奄美大島と徳之島の違いが比較できることなど、「未来の研究の可能性が広がる」と期待。事故の増加には懸念を示し、「標本が蓄積されるのは喜ばしいことだが、日本の宝といえる動物。安全運転をお願いします」と述べた。

 

聴講した奄美市名瀬の有村そのえさん(59)は「標本が学術研究に役立つことが分かった。クロウサギが事故に遭わないように、人の意識を高めないといけないと思った」と話した。