豊穣の奄美継承へ議論 復帰70周年記念シンポ 鹿児島大学

2024年03月24日

芸能・文化

復帰70周年を記念して開かれた鹿児島大学のシンポジウム=23日、鹿児島市の同大学

鹿児島大学法文学部付属「鹿児島の近現代」教育研究センター(丹羽謙治センター長)が主催する奄美群島日本復帰70周年記念シンポジウム「豊穣の奄美―研究と文化の継承―」が23日、鹿児島市の同大学であった。奄美市名瀬の同大学国際島嶼(とうしょ)教育研究センター奄美分室ともオンラインでつないで開催。両会場に合わせて約200人が参加した。奄美研究や島唄継承の在り方とこれからについて研究者らが議論した。

 

「鹿児島の近現代」教育研究センターは2022年10月設立。鹿児島の歴史・文化・自然を活用した調査研究や活動を通して、大学外の組織や一般市民とのつながりを促進することを目的としている。シンポジウムは春と秋の恒例行事として今回を含む計4回実施。奄美を題材に取り上げるのは初めて。

 

第1部は「奄美研究の過去/現在/未来」と題して、鹿児島大学の皆村武一名誉教授と鹿児島工業高等専門学校の町泰樹准教授が登壇した。

 

皆村名誉教授は戦後奄美における社会経済の変容について講演。奄美群島振興開発特別措置法(奄振法)により復興が進んだものの島内で資金の循環・貯蓄ができていないことを指摘し、経済的自立の重要性を訴えた。

 

町准教授は文化人類学や民俗学の観点から奄美研究の発展の経過を説明。新しいテーマが発掘され、国や他地域との関係の中で島の歴史・文化が再考されている現代の奄美研究にも触れた。

 

第2部は「21世紀の奄美島唄―伝統から何を受け継ぐか?」がテーマ。鹿児島大学の梁川英俊教授と同大学院博士課程後期のアンニさん、東京音楽大学の原田敬子教授がそれぞれの研究に基づき発表した。

 

梁川教授は島唄の特徴や成り立ちを解説。継承に向け、大学と協力したブックレットの作成や定期的に島唄を聞いたり歌ったりできる場の開設などを提案した。

 

アンニさんは教室や大会の影響による島唄の舞台芸能化や、若手唄者によって伝統的な歌掛けが見直されている現状を説明。原田教授は「創造」をキーワードに、島唄をベースとした楽曲の制作など新たな試みの事例を紹介した。

 

コメンテーターは川村学園女子大学の酒井正子名誉教授。各発表の内容を踏まえ、島唄のヒギャ唄の系統や年代別の唄者の動向などについて解説した。

 

最後は唄者の里朋樹さん、歩寿さん兄妹による島唄ライブ。復帰にちなんだ歌詞の「くるだんど節」など計8曲を披露した。最後は六調で締めくくり、参加者らも手舞いやハト(指笛)で盛り上がった。

 

会場に訪れた元県職員の男性(74)=鹿児島市在住=は「40年ほど前に瀬戸内町に赴任し3年間過ごした。島唄が懐かしい。奄美の精神文化を興味深く感じた」と話した。

丹羽センター長は「今回を機に個性のある奄美群島の島々との関係を深めたい。文化・歴史を中心に現状の把握や課題解決につなげることができたら」と語った。

島唄ライブで盛り上がる会場の人たち=23日、鹿児島市の同大学