西古見の戦跡、3Dデータ化 郷土教育、観光などに活用へ 瀬戸内町

2023年03月10日

政治・行政

特殊な機材で砲台の3D計測を行う松井教授=9日、瀬戸内町

奈良県立橿原(かしはら)考古学研究所と筑波大学の共同チームは9日、瀬戸内町の戦跡のうち、西古見砲台・第2観測所跡の調査を開始した。遺構を丸ごと3D(立体)データ化したり、使われた素材の成分を分析したりするもので、調査結果は町へ提供する。町担当者は「今後の保存や、教育、観光など幅広い分野で活用したい」と話した。調査は10日まで。

 

西古見砲台跡は同町の西端西古見地区に所在する遺跡。1921(大正10)年から40(昭和15)年にかけて、砲台や弾薬庫などが配備された。敵の侵入を監視していた第2観測所は公園化されており、現在も観測用窓上部に残る大島海峡の島々を描いた絵図を見ることができる。

 

同時期には、奄美大島と加計呂麻島に挟まれた大島海峡では東と西の端を中心に旧日本陸軍の要塞(ようさい)が複数築かれ、瀬戸内町はそれらを戦争の記憶を伝える近代遺跡(戦争遺跡)として保存、「奄美大島要塞跡」として国史跡の正式な指定を目指している。

 

調査は橿原考古学研究所の河﨑衣美主任研究員、筑波大学芸術系保存科学の松井俊也教授の2人が行った。松井教授は特殊なレーザースキャナーを用いて観測所の外観と内部を測量。データはすぐにコンピューター上で3次元化され、正確でより直感的に分かりやすい3Dモデルが構築された。

コンピューター上で3次元化された測量データ。さまざまな角度から観察することができる。

河﨑研究員は対象物に含まれている元素の量などを調べる「蛍光エックス線分析」で絵図を分析。どのような顔料で描かれたのかを今後の詳しい調査で突き止め、将来的な修復に生かす。素材が分かることで、描かれた当時の鮮やかさを再現することもできるという。

 

松井教授は瀬戸内町の戦争遺跡について、「人の立ち入りが少ないためか驚くほど状態がいいが、傷む前に整備計画が必要。地元で残し、活用していく機運を高めてほしい」と語った。

 

調査はいずれも、建物に傷を付けたり顔料を削り取ったりしない非破壊式。同行した町教委社会教育課の鼎丈太郎主査は、「分析結果を基に保護や修復の在り方を検討していく。3Dデータは汎用性が高く、戦争遺跡を通じた郷土教育や観光への展開に生かしたい」と期待した。