カヌー縦断、鹿児島に 日本復帰「陳情団」記憶つなぐ 結人プロジェクト

2023年07月28日

地域

アウトリガーカヌーで7日間、約300キロの航海を達成し、喜びを分かち合う「結人プロジェクト」のメンバーら=27日、鹿児島市の磯海水浴場

戦後の米軍統治下で厳しい渡航制限が敷かれる中、奄美大島から本州へ命懸けで渡り、日本復帰への望みを訴えた「密航陳情団」。かつての奄美の青年たちの覚悟をたどり次世代へつなごうと、カヌーでトカラ列島|鹿児島市の縦断を目指し、宝島(十島村)を出発した「結人(ゆいんちゅ)プロジェクト」のメンバーが27日、鹿児島市の磯海水浴場に到着した。台風の影響を避けるため予定より1日早い到着。計7日間で300キロ超の旅を達成した。ゴールでは鹿児島市カヌー協会や地元小学生ら約40人が集まり、キャプテンの白畑瞬さん(38)らメンバーを祝福した。

 

「結人プロジェクト」は2013年結成。米軍統治下の島の人々の思いを学び伝えようと、カヌーでの活動を通じ復帰運動当事者たちと関わりを深めてきた。白畑さんが一人で挑んだ沖縄本島から奄美群島へのカヌー単独航海から10年。復帰70年を迎え当事者の高齢化が進む中「記憶の風化」に立ち向かおうと、仲間たちと共に新たな旅に挑んだ。

 

一行は20日に奄美大島から宝島へ船で移動。翌日小型高速船と共に宝島から6人乗りのアウトリガーカヌーで出発し、悪石島、諏訪之瀬島、口之島、口永良部島、竹島、指宿市を経由しゴールの鹿児島市へ向かった。悪石島のメンバーも加わりこぎ手は総勢17人。各島では復帰当時を知る人々からも話を聞いた。

 

航海中は黒潮の激しい流れで、カヌーが転覆したことも。雨や霧で前が見えない中でも力を合わせこぎ続けた。

 

「スットゴレ(負けてたまるか)魂」を胸にメンバーを引っ張ったという白畑さん。「日に日に復帰に対する思いが増していった。復帰70年はお祭りではなく、当時の人々の苦難や覚悟を受け継ぐ節目。ここはゴールではなくスタート。続ければいつかたどり着けるというチャレンジ精神を伝えていきたい」と航海を振り返った。

 

こぎ手として参加した天城町の向井伸志さん(52)は「毎日が試練の連続で不安だったが、各島であたたかい歓迎を受け、仲間と共に海を越えられた。今は先人たちの思いを感じられる」と笑顔で話した。

 

アウトリガーカヌーで7日間、約300キロの航海を達成した「結人プロジェクト」のメンバーと到着を歓迎する地元住民ら=27日、鹿児島市の磯海水浴場

 

「ぜひこの目で見届け、子どもたちへ伝えたい」とゴールで出迎えた鹿児島市の宮山清和さん(72)=瀬戸内町出身=は「島に帰りたくなった。自分が島の教員だったころ、子どもたちへ歴史を伝えられなかったことを悔やんでいる。鹿児島の子どもたちにも奄美の歴史を知ってほしい」と語った。

 

プロジェクトのメンバーは後日、奄美市で報告会を開く予定。