嘉徳海岸護岸整備(下) 生態系への影響懸念も 話し合い求め続く抗議

2022年02月28日

地域

「嘉徳を守ろう」のプラカードを手に、工事現場に座り込んで抗議する自然保護団体の関係者ら=24日、瀬戸内町嘉徳

「重機が通るだけで環境が変わり、生態系が破壊される」「工事を中断して話し合いの場を設けて」

22日午前、瀬戸内町嘉徳集落入り口近くに集った嘉徳海岸護岸工事の見直しを求める自然保護団体のメンバーら約20人が、県職員へ抗議した際の一幕だ。「施工は嘉徳川から河口、砂浜、海へと続く環境の連続性を遮断し、希少な野生生物がすめなくなる」などと約3時間訴えたが、県は午後、本格的に工事用道路を着工した。

今月、護岸整備予定地の嘉徳浜を歩いた。2014年秋の浸食後に瀬戸内町が緊急対策として設置した土のうが、地表からわずかにのぞく。浸食当時から浜を記録した写真を時系列で見比べると、砂は一定量戻ってきているようだった。

15年から同海岸にアダンの植樹を行ってきた「奄美の森と川と海岸を守る会」は、海岸工学に関する民間の調査会社と連携して海岸の砂の量をモニタリング調査している。同集落在住で、同会代表の高木ジョンマーク氏(49)は「8年前の浸食以前と比べ、現在は95%以上の砂が戻ってきている。この間、新たな浸食被害はなく、護岸を造る必要はない」と持論を展開する。

同氏によると、19年に国がIUCN(国際自然保護連合)へ行った護岸工事に関する報告では、工事の際に嘉徳川と十分な距離を取り、自然に適応した工法で行うとしている。だが、工事用道路の建設予定地と河川の距離が最も近い所はわずか5㍍にとどまる。

高木氏は「工事現場から離れているというのは、そこの生態系に影響を与えないために必要な措置で、工事の音や砂浜が踏み荒らされるのは大きな影響になる。IUCNに対して約束したことが守れなければ、世界自然遺産の取り消しになる可能性もある重大な問題」と語気を強めた。

護岸工事への抗議活動の参加者は、集落外の住民が大半。東京都から参加した国連生物多様性の10年市民ネットワークの坂田昌子さん(62)もその1人だ。緩衝地帯でありながら、奄美群島国立公園の普通地域であることを理由に工事を実施しようとする県の姿勢について、「海域から河川、コアゾーン(核心地域)へ続く生態系の連続性を確保するには、緩衝地帯も保全しなければいけない。今回の工事の過程で生態系が壊され、とどめに護岸が設置される」と批判した。

昨年8月に宮城県から龍郷町へ移住した及川歩さん(32)は職場から約1カ月半休暇を取り、工事現場周辺で座り込みを続ける。「ここに参加しているのは島民ばかり。県民の声を聞く場を設けるのは県の最低限の責任ではないか」と訴えた。

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高木氏らは県に対し、これまで5~6回質問状や要望書を送っているが26日現在、県から文書での回答は1度もない。護岸工事の見直し派が求める話し合いの場について、県は「嘉徳集落住民を対象とした計4回の説明会と5回の個別訪問を実施しており、説明の必要はない」との立場を示している。

17年度には環境への影響を理由に反対する声を受け検討委員会が設置され、工事幅が縮小した経緯がある。18年1月に新たな整備計画が決まって4年以上が経過した今も、見直し派が抗議するのは事業の進め方に納得していないからだろう。将来に禍根を残さないためにも、県は見直し派と丁寧に向き合う姿勢が必要ではないか。
(おわり)