戦争の影響正しく知って 全盲の出身者が執筆 北郷さん「徳之島戦争体験記」

2022年08月16日

地域

点字で執筆中の北郷さん(提供写真)

天城町出身の北郷博光さん(84)=東京都=はこのほど、戦時中の体験をまとめた「徳之島戦争体験記」を自費出版した。視力を失いながら現在も執筆活動を続ける北郷さんは「戦争未体験者や未来を担う子どもたちに、戦争が徳之島にもたらした影響について正しく知ってほしい」と平和への思いを込めた。

 

北郷さんは1937年、現在の天城町兼久で生まれ、兼久国民小学校、村立南中学校(ともに当時)で学んだ。徳之島高校を卒業後、大阪の出版会社に就職。病気のため1985年に視力を失ったが、2001年から点字を習い、02年に執筆活動を始めた。現在は東京都台東区で娘2人と暮らしている。

 

体験記は6章構成で143㌻。太平洋戦争の開戦から米軍が南西諸島を襲った1944年10月の10・10空襲、敗戦、枕崎台風、日本復帰など、戦中、戦後に徳之島で起きた出来事を、自らの体験と記憶、その後の調査内容を交えてまとめた。

 

特に戦時中に土地の買収、建設が進められた浅間飛行場については多くのページを割いた。小学校の校舎は建設作業員の宿舎にされ、子どもたちはかやぶき屋根の掘っ立て小屋や青空教室で授業を受けたこと、先祖代々大切にしてきた土地を買収された人々もいたことなど、戦争が島民に与えた影響を詳細に記した。

 

また、10・10空襲以降、徳之島への空襲も相次ぎ、北郷さん自身も米軍機から機銃掃射されたこと、爆撃で母校の校庭に大きな穴が開いたこと、食料不足でシイやソテツの実のほか、ホンダワラなどの海藻も食べていたことなど、少年時代の苦しい体験もつづった。

 

結びで北郷さんは「楽しいはずの学校生活は戦争に巻き込まれて勉強どころではなかった」「どの国の指導者も『国民の命と財産を守る』を旗印にしているが果たしてそうだろうか」と疑問を投げ掛け、「現在でも戦争は起きており人ごとではない。当時の徳之島を知り、改めて平和について考えてほしい」と期待した。

 

同書は点字版のほか、朗読CDなども製作。8月には通常の墨字版も完成した。これまでに10数冊を製本し、関係者らに配布。要望があれば増刷して販売も検討するという。