海をつなぐ思い、次世代へ 鹿児島縦断の旅を報告 結人プロジェクト 県立奄美図書館

2023年10月23日

地域

旅のエピソードや未来への思いを座談会形式で発表した「奄美鹿児島カヌー航海チャレンジ報告会」=22日、奄美市名瀬の県立奄美図書館

今年7月、トカラ列島から鹿児島市まで356・46キロのカヌーの旅を達成した「結人(ゆいんちゅ)プロジェクト」が22日、奄美市名瀬の県立奄美図書館で「奄美鹿児島カヌー航海チャレンジ報告会」を開いた。地域住民ら約30人が参加。北緯30度線越えやメンバーの緊急搬送と復帰、ゴール直前でチーム内に生じた亀裂などを振り返り、旅を通じて感じた未来への思いを発表した。

 

カヌーによる縦断は戦後の米軍統治下で、日本復帰を訴え奄美から本州へ渡った「密航陳情団」の意志を受け継ごうと企画。7月21日に十島村宝島を出発、6港を経由して、同27日に鹿児島市へ到着した。道中、体調不良で緊急搬送された仲間もゴールで合流。チーム全員で目標達成の喜びを分かち合った

 

報告によると、最大の試練が訪れたのはゴールまで残りわずかとなった7日目。最後の寄港地・指宿市の目前でカヌーが伴走船から離れ、ルールとしていた交代時間を過ぎてもこぎ続けたことに、伴走船チームとこぎ手との意見が割れた。

 

メンバーは黒潮の激しい流れや仲間の離脱を経て「疲労が極限状態で、互いの配慮ができていなかった」と回顧。長時間のミーティングの末、「誰のためにこいでいるのか」との声に改めて心を一つにしたという。

 

キャプテンの白畑瞬さん(38)は「戦後、復帰運動に参加した楠田豊春さんの『苦難、苦労を語り継いでほしい。復帰運動は祭りごとじゃない』との言葉を心に刻み、仲間とけんかしたり、涙したり、信頼と団結力を重ねてきた。北緯30度線は、海にはない。俺たちにもできる、という思いを未来につないでいきたい」と力を込めた。

 

報告会に参加した「軍政下奄美の密航・密貿易」(南方新社)の編著者、佐竹京子さんは「白畑さんたちの旅はひとつの歴史をつないだ。本にまとめ次世代へ残してほしい」と話した。