「命を守る訓練」住民理解は 県内初、武力攻撃を想定 屋久島町民の反応

2024年01月24日

社会・経済 

宮之浦陸上競技場で行われた訓練を終え、離陸する自衛隊ヘリを見詰める屋久島町の親子ら=21日、屋久島町宮之浦

「この訓練は、万一の事態が発生した際に、住民の命を守る仕組み作りとして、国主導による避難訓練等を行うものです」(屋久島町広報誌)。21日、他国からの武力攻撃が予測される事態を想定した、県内初の国民保護訓練の実動訓練が屋久島町で行われた。屋久島宮之浦と口永良部島、計300人の住民参加を予定していたが、町によると、昨年11月末の米軍オスプレイ墜落事故の影響で、住民参加は見送られた。「住民の命を守る」訓練を、島民たちはどう受け止めただろうか。

 

宮之浦の上浦サチ子さん(74)は「最近の情勢を考えれば訓練はあった方がいいと思う」と話し、町立中央中学2年の松田陵玖さん(14)、屋久島高校1年の平原劉亮さん(16)、藤山柊生さん(同)は「訓練実施は知らなかったが参加できるならする。年齢や地区など、避難の優先順位を知っておいた方がいいと思う」と話した。

 

安房の漁師、中島正道さん(68)は「とんでもない話だ。戦争が無く、子や孫が安心して暮らしていける、訓練をしなくていい政治をするのが当然だ」と憤った。小瀬田の渡辺正人さん(89)は「ずっと島で生きてきた。(有事も)自分はここに残る」。

 

町営長峰牧場(小瀬田)の管理者、片山吉清さん(57)は「とても複雑だが、自分の命あってこその仕事。強い要請があれば、牛たちを置いての避難はやむを得ない。有事も災害も、知ることで対応が理解できる。訓練は必要だと思う。(防衛問題に対し)馬毛島での基地整備もあり、意識は少し向いたが、まだ対岸の火事という気持ちだった。だがオスプレイ事故で、他人事ではないと感じた」と話した。

 

一方で「国民保護法って何」「何をするの」「なぜ屋久島なの、なぜ宮之浦なの」という疑問も。住民参加が予定されていた宮之浦の森山文隆区長(67)は、区役員らから戸惑いの声を受けたという。

 

宮之浦地区の住民は、2023年4月末時点で2769人。町はそのうち200人の訓練参加を募るに当たり、参加住民の選出を区長と区役員らに依頼した。森山区長は「(県や町は)訓練のための勉強会を開くというでもなく。内容が理解しにくく、参加者をどう決めるのか難しいと思っていた」と話した。

 

訓練の柱となった自力避難が困難な「要配慮者」についても、県と町は島内の入院患者、社会福祉施設入所者、在宅医療の患者を要配慮者とし、両島で合計324人と算出したが、森山区長は「宮之浦は島の各地から人が集まっており近所との関係が少し希薄。要配慮者がどこに住んでいるか、全員を把握できてはいない」という。

 

訓練では、要配慮者役の職員を搬送車両に乗せ、施設を出発するまでが中心となった。訓練後、各施設の現場担当者たちから次のような声が聞かれた。

 

「非常時に実際にどれだけ職員が集まれるのか」(屋久島徳洲会病院、泊春代看護部長)、「想定範囲内の動きで、予定より早く訓練を終えてしまった。もっと難題を投げかけてもらえたら」(特別養護老人ホーム「縄文の郷」、義山正浩理事長)、「リアリティが出せなかった。実際の民家で訓練したほうがよかった」(町福祉支援課、笠井睦係長)。

 

初の実動訓練は、国民保護法に対する住民の理解につながったのか。宮之浦陸上競技場で訓練を見学していた安房の藤本瞳さん(36)は「訓練はいいと思う。でも今日は何をやっているかよく分からなかった」とこぼした。

 

森山区長は「非常時にまとまった行動ができるかは、普段から意識できているかどうか。これは何に基づく訓練か、その熟知がなければ。(住民参加は)一度やってみれば、次につながることが見えたかもしれない。次があるのかは分からないが」と話した。

(佐藤頌子)