未移出食材、東京で熱視線 果実や魚、プロがアレンジ 奄美群島産の魅力発信

2024年03月17日

社会・経済 

大和村のタンカンなど奄美大島の食材をふんだんに使ったフルコースを提供したイタリアンレストラン「代官山ASOチェレステ日本橋店」の菊池恒毅料理長=2月25日、東京都中央区

奄美群島外では販売されることの少ない規格外のタンカンや低利用・未利用の海魚など奄美群島のおいしい「B級農水産物」を、食のプロたちにアレンジしてもらい東京で流通させる試みが進んでいる。レストランで食材として利用してもらったり、レトルト食品に加工して販売したり。食を通じて奄美の魅力を発信しながら、生産者らの新たな収入につなげるのが狙いだ。

 

■好反応

 

「まさに果汁爆弾。他のかんきつ類と比べられないほどのジューシーさと甘さに衝撃を受けた」。東京都中央区にある百貨店「日本橋三越」の中に店舗を構えるイタリアンレストラン「代官山ASOチェレステ日本橋店」の菊池恒毅料理長(48)は、店を訪れた顧客たちの反応の良さを話す。

 

JAあまみ大島事業本部と大和村は2月、地場産農産物の知名度拡大に向け、奄美の食材を活用したメニューをレストランなどで提供してもらうイベント「DISCOVER AMAMIOSHIMA YAMATO|SON」を都内で実施。同店では旬を迎えたタンカンやクロマグロ、島豚、ミキなどのご当地食材で構成した「奄美大島フルコース」が提供された。

 

レストランとしての差別化も図ろうと、国内各地のご当地食材のメニューへの活用を進めている菊池料理長は、奄美群島を訪問。熱心な農家や漁師、魅力的な食材の存在を知り、「島内消費だけではもったいない」と、今回の企画に快く賛同した。

 

同事業本部の國塚秀三郎園芸課長は「タンカンの規格外品は外見が少し悪いだけで、糖度は10度以上ある。それでも単価が大きく下がってしまい、群島外への流通ルートも限られる」と、現状と課題を説明。

 

その上で、今回の取り組みについて「新たな活用方法を模索することで、最終的には農家の手取り増につなげていくのが狙いだ」と話し、効果に期待する。

 

■低利用魚 レトルト食品に

 

国内離島のさまざまな課題解決に取り組む離島経済新聞社(東京都世田谷区、リトケイ)も2月下旬、与論町漁協と連携し、味は良いが下処理にこつが必要で島の人も時々食べる程度という海魚「テングハギ」を使ったレトルト食品を試験販売。試食した40代女性は「魚のだしがスープに溶け込み、レトルトと思えないぐらい食べ応えがあっておいしかった」と話した。

 

今回のレトルト食品は、日本の魚食文化継承を目的に活動する料理人組織「Chefs for the Blue(シェフスフォーザブルー)」に所属する後藤祐輔シェフが監修し、愛媛県の加工業者と何度も試作を重ねて完成させた。

 

「離島沿海の魚は物流の問題などから島外での流通はほとんどなかったが、レトルト食品にすることで新しい需要を喚起できればと思う。島と外のプロをつなげることで、未利用・低利用の魚の活用方法も広がり、離島漁業の再構築にもつながればうれしい」とリトケイ企画編集室の石原みどりさんは期待する。

 

■生産者にも刺激

 

こうした農水産物の都会の消費者に向けての積極的な発信は、生産者である農家や漁師たちの刺激にもつながっている。

 

大和村福元盆地で育てたタンカンを代官山ASOチェレステ日本橋店へ提供したのが、都会からIターンし就農した広野裕介さん(37)だ。島から同レストランに赴き、フルコースで出されたタンカンを食べた時は、感無量だったという。

 

「都会での奄美タンカンの認知度の低さは知っていたが、伝える努力も必要。認知度を上げるだけでなく、奄美大島のどこのタンカンというように、もっと深く島の食材を知ってもらい、中核となるファン層を生み出すことが、島の農産品の流通の可能性を広げていくと感じた」と話した。

 

自分たちが作った農産物が、都会で流通していることを肌で感じる若者たち。

今回のような取り組みが農業の魅力を島内外に伝え、高齢化などで転機を迎える島の農業の持続性につながっていくことも期待される。

(東京通信員・吉沢健一)