【輸血は今】⑤ 離島の「命綱」 「生血輸血」どう捉える
2024年09月18日
特集
奄美大島で日本赤十字社の血液(日赤血)が足りなくなる緊急時に、長年行われてきた生血(なまけつ)輸血。島民の助け合いを前提としたこの離島医療の現状を、私たちはどう受け止め、考えていったらよいのだろうか。
■「輸血療法の指針」では
「特別な事情のない限り行うべきではない」
厚生労働省は生血(病院内で採血された血液)輸血について、「輸血療法の実施に関する指針」でそう記す。
理由は▽供血者の問診や採血した血液の検査が不十分になりやすい▽供血者を集めるために患者や家族に精神的・経済的負担をかける―ため。
これらの課題を解消すべく、奄美市名瀬の県立大島病院では問診や検査が不十分にならないよう必要な項目を定め、年に数回、手順確認の訓練を実施している。さらに、採血した生血には必ず放射線を照射し、安全性を高めている。
また名瀬保健所は、患者や家族に供血者を集める負担がないよう、日赤の献血バス来島時に、供血ボランティアに協力してくれる住民を募集。大島地区消防組合と連携し、供血者名簿を管理している。
■供血者の実態
県立大島病院の医師らが2020年に発表した論文によると、救命救急センターが開設された2014~18年の5年間、18人に生血輸血が行われ(年平均3・6回)、16人の命が救われた。
課題もある。供血者の居住区と職種の偏りだ。
同病院はこの18例をさらに調査。供血のため病院に来たボランティアは延べ193人に上ったことが判明。うち採血できたのが137人、使用した血液は89人分、未使用で廃棄になった血液は48人分あった。
また、住所別では奄美市名瀬が116人、龍郷町が6人、瀬戸内町が1人、不明が70人だった。
職業別にみると県立大島病院の職員42人(21・8%)、県職員29人(15%)、奄美市職員38人(19・7%)、龍郷町職員2人(1%)、国家公務員1人(0・5%)、民間・親族他14人(7・3%)、不明67人(34・7%)だった。
同論文は「実際には居住地区や職種によって過度に偏って供血者としての負担を強いている」と指摘する。
■現場医師の声
同論文で県立大島病院の医師らは「人命が消えゆこうとしている場面における供血者への要請は、善意の強要になっている可能性がある」と指摘。「島民の善意を前提とした血液供給体制を常態化させてはいけない。(中略)より安定確実な血液供給体制を模索し目指し続けなければならない」と厳しく総括している。
生血輸血を決定する立場に立つことの多い中村健太郎医師(40)=同病院救命救急センター長=は、奄美の現状を「離島では(生血輸血を)せざるをえない」と話す。
日赤による血液備蓄所の設置の必要性を訴える一方で「一定数の日赤血の在庫を置いても大量出血の症例は必ず来る。その時どうするか。組織の壁を越えて地域で議論していかねばならない」と指摘する。
同じく生血輸血を発動する大木浩医師(60)=麻酔科部長=は「生血の事実は現状の血液供給が十分ではない証。今より供給体制を手厚くする必要がある」と話す。
奄美群島民の「最後の砦」である県立大島病院。医師らは「日赤血が離島にも安定供給される仕組みを構築するのは国の責務。そのためには地域の声が必須。この現状を群島みんなで考えてほしい」と話している。 (柿美奈)
=おわり=
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