空白の1万年、埋める痕跡 下原洞穴遺跡、研究に期待 天城町でシンポジウム

2023年02月14日

芸能・文化

専門家を招いて開催された下原洞穴遺跡シンポジウム=12日、天城町防災センター

天城町と町教育委員会主催の「下原(したばる)洞穴遺跡シンポジウム」が12日、町防災センターで開かれた。島内外から約130人が来場。町学芸員、専門家らの発表やパネルディスカッションがあり、同遺跡の秘めた価値や可能性について理解を深めた。

 

同遺跡は同町西阿木名にある洞窟で、これまでの調査で約3500年前の男女の人骨や土器などが発見されている。さらに約1万3千年前の地層から隆起線文土器と呼ばれる国内最古レベルの土器も発見されており、奄美・沖縄地域の旧石器時代の重要な遺跡として今後の発掘、研究への期待が高まっている。

 

シンポジウムのテーマは「空白の1万年の痕跡」。奄美・沖縄地域では約2万年前と約7千年前の間の約1万3千年の間の遺跡が極端に少なく「空白の1万年」とされている。同期間の土器が確認された遺跡は2カ所しかなく、下原洞穴はそのうちの一つ。

 

シンポジウムでは町教委の中尾綾那学芸員がこれまでの遺跡調査について報告したほか、土肥直美氏(元琉球大学医学部准教授)、高宮広土氏(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター長)、堂込秀人氏(県上野原縄文の森園長)がそれぞれの研究分野から見た遺跡の価値について見解を述べた。

 

土肥氏は人骨調査、堂込氏は土器と石器の研究の観点から「空白の1万年の遺物が発見されればさまざまな謎の解明につながる」と、同遺跡の意義と価値について強調した。

 

高宮氏は同遺跡の最新の研究で、アマミノクロウサギが1万7千年前から人間の食料とされていたことを紹介し、「1万年以上食料とされてきたのに、クロウサギが絶滅しなかったことは世界的に見ても大変珍しい。先史時代の徳之島と奄美大島では、人と自然が調和した生活が営まれていたのではないか」と推察した。

 

発表後は3氏と熊本大学名誉教授の甲元眞之氏、同町教委の院田裕一教育長が参加したパネルディスカッションがあり、来場者から寄せられた質問に各氏が回答した。甲元氏は同遺跡について「旧石器時代から人々の暮らしがどのように広がって今日に至ったのか、下原洞穴はそのことを知るためにも重要な遺跡」と総括した。

 

町と町教委は遺跡が町初の国指定史跡となることを目指している。シンポジウムの司会も務めた中尾学芸員は「今回のシンポジウムは指定実現へ向けて地元住民の機運を高めることも目的」と説明。「島外からも参加があり予想以上の手応え。来年度は島外でのシンポジウムを開催して一層の周知を図りたい」とも語った。

町内で発掘された遺物が公開された展示ブース