米軍統治下の奄美から上京 バイオリニスト・久保陽子さん(80) 空き缶の楽器で練習 世界で活躍するソリストに

2023年12月14日

地域

情感豊かに「ツィゴイネルワイゼン」を演奏する久保陽子さん=10日、奄美市名瀬

奄美大島出身のバイオリニスト久保陽子さん(80)が10日、奄美市名瀬の奄美川商ホールで開かれた日本復帰70周年記念「奄美第九2023」のコンサートに特別ゲストとして出演した。米軍統治下の奄美で幼少期を過ごし、バイオリンを学ぶため8歳で上京した久保さん。「今は奄美でもオーケストラなど音楽活動が発展していて夢のよう」と目を輝かせた。

 

久保さんは1943(昭和18)年生まれ。小学校2年生まで名瀬で育った。音楽好きの両親の影響で3歳からバイオリンを始めた。当時は米軍統治下の貧しい時代。父が配給品の空き缶を使って手作りしたブリキのバイオリンで練習していたという。

 

バイオリニストの道を進むきっかけは久保さんが5歳の時。当時人気だった「石井みどり舞踊団」が沖縄公演に向かう途中、台風のため奄美大島で約1カ月間停泊した。一行には石井氏の夫で鹿児島出身の著名なバイオリニスト折田泉氏もいた。

 

久保さんの両親は「こんな機会はめったにない」と娘への指導を仰ぐため折田氏を訪問。幼い久保さんの演奏を聞いて才能を見いだした折田氏は「すぐに東京へ出た方がいい」と強く勧めた。

 

ところが、「留学」を目的とした本土への渡航は久保さんがまだ子どもだったため許可が下りず3年が経過。最終的に両親は離婚の形を取り、母は実家がある指宿に帰るという名目で、8歳の久保さんを連れて上京した。53年、奄美が日本に復帰。当時10歳だった久保さんは、東京の日比谷公会堂で開かれた祝賀式典で「ツィゴイネルワイゼン」を演奏した。

 

東京で本格的にバイオリンを学んだ久保さんは、62年に桐朋高等学校音楽科を卒業。同年にはチャイコフスキー国際コンクールで3位入賞を果たした。この後フランス・パリへの留学などを経て、ソリストとして世界中で活躍してきた。

 

国際的な舞台で仕事をする傍ら、「奄美第九」をはじめとするさまざまな機会に奄美を訪れ、古里での演奏・指導活動も行っている久保さん。「子どもの頃、両親と一緒に島内外の学校を回って親子で演奏を披露していた。この音楽経験が私の大きな一部になっている」と奄美時代の思い出を振り返る。「島の人たちはもともと音楽への情熱がある。血が騒ぐという感覚は大事」とも話した。

 

10日のコンサートは、久保さんの特別記念ステージで開幕。「シャコンヌ」をソロで演奏し、伸びやかな美しい音色を響かせた。復帰70周年を祝し、地元の奄美オーケストラとともに「ツィゴイネルワイゼン」も披露。迫真の表情で力強く弦を奏で聴衆を魅了した。

 

演奏後、久保さんは「さらに奄美の音楽が進化していて感激した」と笑顔。「80歳になったが、これからも変わりなく演奏活動を続け、いろんなことに挑戦したい」と快活に語った。