国民保護とは何か 「訓練は誰のため」 戸惑う住民、説明は

2024年02月07日

地域

屋久島徳洲会病院のロビーに掲示された、訓練実施を知らせる張り紙=1月21日、屋久島町宮之浦

「そもそも、国民保護ってなんですか?」―。他国から武力攻撃を受ける事態を想定し、屋久島・口永良部島の両島の住民約1万2千人の島外避難を検証する目的で行われた、内閣官房と鹿児島、熊本両県の国民保護共同訓練。先月21日、訓練が行われた屋久島町の住民は戸惑いをにじませた。国民保護で守るべきものは何か、誰のための訓練なのか。避難の際、民間企業や住民の協力は欠かせない。山積する避難体制の課題解決の前に「国民保護とは何か」。住民への説明は、まだ十分になされていない。(佐藤頌子)

 

2004年に施行された国民保護法は、大規模テロや武力攻撃が起きた際に国民の生命、身体、財産を守るための国や地方自治体の責務、避難や救援、武力攻撃への対処措置を規定している。一方、制定後「戦争を前提としていること自体おかしい」「実態は国民動員の法律」などの批判もあり、戦争を想定した国民保護訓練は実施されず、テロを想定した訓練や図上訓練が続いた。だが北朝鮮によるミサイル発射や台湾有事の危機感の高まりなどを受け、23年1月に沖縄県で弾道ミサイル飛来を想定した地下施設への住民避難訓練が行われるなど、取り組みが広がっている。

 

今回の訓練は、①政府が武力攻撃予測事態認定の可能性を踏まえ、避難計画作成や調整を開始②屋久島・口永良部島への来島自粛を国民に周知③来島制限を開始。航空機、船舶の輸送体制を確立④武力攻撃予測事態を認定⑤島民の避難開始―と想定したが、そもそも「相手国を刺激する恐れがある」として攻撃予測の事態認定が難しく、基準も明確ではないという国の問題も抱えている。

 

奄美群島の場合、県の国民保護計画では①与論島、沖永良部島、徳之島からは県本土、状況により沖縄に直接避難②加計呂麻島、請島、与路島からは奄美大島に一時避難した後、奄美大島の住民と一体となり避難③奄美大島からは県本土に直接避難。状況により島内での避難を実施しつつ、県本土へ避難④喜界島からは県本土に直接避難。状況により奄美大島へ一時避難―としている。さらに「奄美大島の安全が確保されている場合は、トカラ列島から奄美大島に避難することもある」とも記され、大島は「住民の島外避難」と「受け入れ先」両面での準備が必要となっている。

 

今回の訓練に、奄美群島からは瀬戸内町の土井一馬防災専門監が県に赴き、鹿児島市の県市町村自治会館で訓練を参観した。訓練後、土井防災監は「全体の流れや町がすべきことが確認できた。県が必要とする情報を、求められた際にすぐ提示できるよう準備を進めたい」と受け止め「高齢者や入院患者など要配慮者の人数や所在は日々変化する。医療・福祉施設と連携し、平素から把握できる仕組みを整備しておかなければ」と述べた。

 

奄美群島における避難時の輸送力や住民の受け入れ先、要配慮者の搬送方法、悪天候時の対応など具体的な計画について、県は「屋久島での訓練成果や課題を共有し、検討する」として、未定となっている。土井防災監は「まずは町職員の意識向上を図りたい。避難に向けた役割分担の明確化も必要。その上で、奄美大島5市町村で県と交渉、避難準備ができる体制づくりを急ぎたい」と自治体間の連携の重要性を訴えた。

 

地元で訓練が行われた場合、町民の理解は得られるか。「要配慮者の把握、避難所の確認、集落の人たちとの顔の見える関係性づくりなど、国民保護に向けた準備は自然災害への備え、防災にも必ず役立つ。集落の方たちと対話し、共に現場を確認し、命を守るために必要なこと、誰のための訓練なのかを伝えていきたい。町の防災の出前講座なども気軽に活用してほしい」と話した。