「垂直避難も」認識共有 昨年の津波警報テーマに 奄美市で鹿大シンポ

2023年01月22日

社会・経済 

津波のメカニズムや住民避難の課題などについて情報共有したシンポジウム=21日、奄美市名瀬

鹿児島大学主催の公開シンポジウム「トンガ沖大噴火『津波警報』避難行動の検証」が21日、奄美市名瀬の市民交流センターであった。関連分野の大学教授や行政担当者らが登壇し、オンライン併用で180人余りが参加。昨年1月に奄美で津波を観測し警報が発令された経緯を振り返り、避難状況や自治体の対応を確認した。科学的知見や避難に関する課題を出し合い「高台への移動に固執せず、近隣建造物の上階などへ行く『垂直避難』も選択肢の一つ」との認識を共有した。

 

2022年1月15日午後1時ごろ(日本時間)、南太平洋・トンガ諸島沖で海底火山が噴火し、同8時以降に日本沿岸で潮位変化が起きた。16日午前0時前には同市名瀬小湊で134㌢の津波を観測し、同0時15分、奄美群島などに津波警報が発令された。

 

この津波について、海岸工学が専門の柿沼太郎鹿大准教授は「大規模噴火に伴う気圧波と海上の波の速度が近かったことによる『共鳴現象』で津波が増幅したことも考えられる」と解説。「東日本大震災のような海底地震に伴う津波と違い、予測に考慮すべき要因が複雑」と続けた。

 

火山地質学を研究する小林哲夫鹿大名誉教授は、噴火に伴う気圧波の発生事例を紹介した上で「山体崩壊によって土砂が海に流れ込んで起きる津波も危険」と指摘。「奄美に津波をもたらす可能性がある火山」として、群島に近い横当島や硫黄鳥島などを挙げた。

 

行政からは気象庁鹿児島地方気象台と県、奄美大島・喜界島計6市町村の各担当者が津波警報発令当時の情報発信、伝達など対応状況を報告。避難所を開設して防災行政無線などで住民に周知した流れを振り返り、要支援者避難の不備や車両渋滞などの課題を挙げた。

 

奄美大島などで当時の避難行動を調べた岩船昌起鹿大教授は、避難した回答者について「半数以上が車で移動」「4分の3弱が別の場所へ移動する『立ち退き避難』を選んだ」と結果を示し、「自宅の標高を知らない人が6割」とも指摘。「自宅周辺の地理や津波の情報を正しく理解し、最適な避難先・手段を考える必要がある」と訴えた。

 

大学教授や行政担当者による講演・報告後の総合討論では、当時、緊急放送を行った同市名瀬のコミュニティーラジオ「あまみエフエム」パーソナリティー・久米蘭さんが加わり意見を発表。「災害時の垂直避難や車両渋滞に関する情報発信は今後の課題」などと話した。