【コロナ 医療現場は今】㊤ 入院できず在宅で療養 医療崩壊「ぎりぎり」

2022年08月22日

社会・経済 

発熱外来の受付場所を案内する掲示物=19日、奄美市名瀬

全国的な感染拡大に歯止めがかからない新型コロナウイルス。奄美群島の新規感染者数は盆明け後の16日に461人となり、過去最多を更新した。奄美大島では酸素投与が必要な患者も入院できず、在宅や施設で療養せざるを得ない状況で、休日の検査体制は医療スタッフの確保も難しい状況に陥っている。「医療崩壊までぎりぎり」(大島郡医師会)の危機的状況だ。医療現場の実情を聞いた。(柿美奈)

 

■入院できない

 

奄美市名瀬で稲医院を開業する稲源一郎医師は19日、血中の酸素濃度が低い高齢患者を診察した。「コロナが流行していなければすぐに『入院しなさい』と言うレベル。普段から酸素濃度が低めの患者だったので、どうにか在宅療養でいけると判断した」と話す。

大島郡医師会によると、奄美大島では新型コロナに感染し、酸素投与が必要な「中等症2」と診断されてもベッドが足りないため入院できず、在宅や施設で酸素吸入を行わざるを得ない事例も出てきている。

院外での酸素投与などの状況が拡大したり長引くことがあれば「酸素ボンベが足りなくなる可能性も十分あり得る」と指摘。熱冷ましやせき止めといった薬の備蓄量も少なくなってきており、現在は処方する数を制限しているという。

 

■休日の検査体制

 

医療体制の逼迫(ひっぱく)を招いている要因の一つは休日の検査希望者の増加。医師会によると、抗原検査は発症から24時間以上経過してからでないと偽陰性となる場合が多い。土曜日に発症しても月曜日の検査で対応可能だが、日曜日の受診希望者は後を絶たない。

背景には「月曜日の出勤が可能かどうか確かめたい」という会社員や、生命保険による自宅療養保険申請手続きなどの事情を抱える人の増加があるとみられる。

医師会は「職場から陰性だったという証明を求められているのが要因では」と推察。「症状の重い方は我慢せずに検査予約を」とする一方、休日は特に看護師の確保が難しい状況にあるため、「軽症者は極力平日の受診を」とも呼び掛けている。

また、医師会は「ドクターショッピング」の問題を指摘。ドクターショッピングとは、一つの医療機関で納得せず、複数の医療機関を次々と受診すること。

陽性が判明した場合、検査を行った医療機関は自治体などへの発生届を書かねばならないが、届を出すと「その患者はすでに(別の医療機関から陽性の発生届が)出ている」と指摘されることも。結果として、医療機関の負担だけが増える。

稲医師は「(結果を)早く知りたいという気持ちは分かるが…」と苦労をにじませた。

 

■経過観察にも課題

 

自宅療養者が増える中、懸念されているのが療養中の経過観察だ。保健所は新型コロナの流行初期、陽性が判明した患者には、毎日健康観察の電話をしていたという。ところがこの感染爆発で、観察の電話は療養開始と終了時の2回とせざるを得ない状況となった。

期間中の経過観察で特に注意が必要なのが、正確に自身の状況を伝えることができない認知症患者などだ。

稲医師にも経験がある。当初は電話で「大丈夫、大丈夫」と答えていた認知症患者が、療養期間の終わりごろになり体調不良を訴えた。往診すると脱水症状を起こしていた。聞けば、当初から具合が悪かったという。「認知症や精神疾患がある方の宿泊療養施設の入所は難しい。施設で徘徊(はいかい)することもある。入院が望ましいが今は困難。電話だけの経過観察でどこまで察知できるか問題だ」と課題を指摘した。